私の好きな名画・気になる名画 6
「絵画の黄金時代」といわれる17世紀オランダで、その頂点をきわめたレンブラントの「夜警」は、集団肖像画の革命ともいうべき 363×438cm の記念碑的な大作です。集団肖像画というのは、16世紀からオランダを中心に盛んになったジャンルで、市民隊や同業者組合の幹部らが、自分たちの肖像画を当時の有名画家に描いてもらい、公的な場所に飾りました。たいていの場合、モデルは10人から20人、画家はその全員を満足させなくてはならず、そのため団体さんの記念写真のように描くのが常でした。そうした傾向に対し、レンブラントは「ただ立っているだけではつまらない。肖像画といえどもひとつの芸術だ。見る人により感銘を与えるために、明暗の効果を生かし、ドラマテックな描写を心がけよう」と、敢然と従来の描き方に挑戦をしました。
こうして、完成させたのがこの作品です。まさに舞台の一場面のように、自警団(火縄銃組合)が出動するさまを、銃に弾をこめる者、威勢よく旗を掲げる者、副官に指示をだす隊長の表情などを、生き生きと臨場感あふれる手法を駆使して描いてみせました。しかし、注文主18名(画面上の額に名前が記されています)の中には、顔が後ろ向き、半分しかない、他の人の手にさえぎられているといった苦情がよせられました。そして、男だけの集団になぜニワトリをぶら下げた少女がいるのだ、注文主以外の男がいるのはなぜだ、手前に犬がいるのは何事か等など、1642年の完成時はあまり評判のよいものではなかったようです。たしかに、この少女は誰もが不思議に思う存在で、以来、その解釈をめぐって論戦が繰り広げられています。亡くなったばかりの妻サスキアの面影を描きいれたという説、隊を守る女神的な存在という説、当時は結束を深める「宴会」が組合の人々に重要視されていたため、少女の腰にあるニワトリ(食べ物)と水牛の角(杯)で宴会を象徴しているという説、単に画面の色彩バランスを保つにすぎないという説、注文主である火縄銃組合の擬人像説など実にさまざまです。
そういう論争が起きるのも、それだけ、この絵を高く評価する人がたくさんいるという証拠だともいえましょう。ある高名な専門家は、この絵を世界3大名画のひとつに上げています。
なおこの絵の題名になっている「夜警」は、後世の人の命名で、正式なタイトルは「隊長フランス・バニング・コックと副官ウィレム・ファンライテンブルフの市民隊」というものです。実際は昼間の情景なのに、ワニス(樹脂などを溶かした透明塗料)のぬり重ねのために画面が暗くなってしまったために、誤った名称がつけられてしまいました。1975〜76年に修復が行なわれ、見違えるほど明るいものになったということです。