こうすれば子どもはしっかり育つ「良い子の育てかた」 53
これは、ある幼稚園の先生から聞いた話です。
父母会の席で、宏美ちゃんという4歳の女の子が、とてもよく気がつき、思いやりがあり、いつも大きな声で 「ありがとう」 と言うので、先生は、その母親に家でのしつけをたずねたそうです。すると、30歳くらいの母親が 「とくに、きびしいしつけなどしていません」 と前置きして、次のように答えてくれたそうです。
「家では、可能なかぎり、どんなことでも手伝わせます。少し無理かなと思うようなことでも、それから、ほんとうは手助けにはならないとわかっていても、手伝わせます。廊下のぞうきんがけでも、ぞうきんをしぼることも廊下をふくことも、全部、わたしといっしょにやらせます。そして、ときどき、半分はわざと、お母さんはほかの仕事で疲れたから宏美ちゃん、やってくれないかなあ、などとたのみます。そして、どんな小さなことでも何かをしてくれたときは、私が、はっきり、宏美ちゃんありがとうと言います。また、おかげで助かったわとお礼を言います。ただ、これだけのことですが、いつのまにか、思いやりのようなことや、ありがとうとはっきり言うことなどを身につけてくれたようです」
とくにしつけはしていないと言われながらも、これ以上のしつけはないのではないでしょうか。「子どもが失敗したときは?」 という問いには、「手伝いの失敗は、どうして失敗したのかなあと言葉をかけて少し考えさせるだけで、とがめません。皿を割ろうが、じゅうたんに水をこぼそうが、これで宏美が何かを学んでいくことに比べれば、なんでもないことです」 と、答えていました。
口先だけで教えたり導いたりするのではなく、母親と子どもが心を溶けあわせたなかで、子ども自身に自分で学ばせていく──この日の父母会は、多くのお母さんがこの母親に学んだようです。