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お嫁さんの鼻にくっついたソーセージ

たまには子どもと添い寝をしながら、こんなお話を聞かせてあげましょう。 [おもしろ民話集 1]

ある町に、ハンスという名前の男と、そのお嫁さんがいました。
ふたりはそれほど貧乏ではありませんでしたが、ハンスもお嫁さんも、すこしばかり欲張りでした。
「町長さんのように、広い土地とりっぱな家に住みたいな」
「私は、世界で一番りっぱな宝石がほしい。それに、お姫様のように美しくなりたい」
ハンスとお嫁さんは、いつもこんな大きなことを望んでいました。
ある晩のことです。ふたりが、いつものように大きな望みを話しあっていると、ランプがすっーと消えて、赤い光に包まれた一人の女の小人が家の中に入ってきて、鈴虫のようなきれいな声でいいました。
「私は、山奥の水晶御殿に住んでいる魔女のお使いです。あなたたちの願いを3つだけかなえてあげましょう。今日から1週間のあいだに、願いをいいなさい」
小人はこういうとぱっと姿が消え、ランプがひとりでに燃え出し、また家の中が明るくなりました。
ハンスは、にこにこしていいました。
「世界で一番大きな望みを3つお願いしよう」
お嫁さんも、にこにこしていいました。
「1週間も暇があるのですから、ゆっくり考えてお願いすることにしましょう」

ところが、次の日の晩のこと。
ジャガイモをお皿に盛っていたお嫁さんがいいました。
「ジャガイモに、ソーセージをそえたらおいしそうだわ」
すると、とたんに家の中がピカッと明るくなり、1本のソーセージが、ジャガイモの上にのっていました。お嫁さんは、ついうっかり、1番目のお願いを言ってしまったのです。
ハンスはこれを見ると、すっかり腹を立てて、
「なんてバカなことを言ってしまったんだ。お前の鼻に、ソーセージをくっつけてやる」
すると、またピカッと光ったかと思うと、ソーセージがお嫁さんの鼻にくっついてしまいました。こんどは、ハンスが2番目のお願いをしてしまったのです。
ソーセージは、どんなにひっぱってもとれません。そこでハンスはしかたなく、
「小人さん、お願いです。鼻にくっついたソーセージを取ってやってください」
すると、家の中がまたピカッと光り、お嫁さんの鼻についていたソーセージがぽとりと落ちました。
ふたりは、顔を見合わせ、うれしいような、悲しいような顔になりました。
大きいお願いをしようと思ったのに、得をしたのはソーセージ1本だけでした。
小人はもうそれっきり、二度と現われませんでした。

投稿日:2007年06月13日(水) 09:17

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)