前回(6/5号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第28巻「中央アメリカ」 の巻末解説を記します。
「中央アメリカ」について
中南米のことを世界の人びとは、ラテン・アメリカとよんでいます。この土地が、スペイン人やポルトガル人などのラテン民族によって開拓され、いまも、人びとの生活のなかに、ラテン民族の風俗習慣や文化が受けつがれているからです。この本で紹介したのは、そのラテン・アメリカのうち、メキシコを除く中央アメリカの国ぐに、カリブ海に弓なりにつらなる大小の島の国ぐに、それに、南アメリカ大陸北部、西部の国ぐにです。これらの国のラテン性を端的に示しているのは、多くの国の公用語がスペイン語だということです。英語国のジャマイカ、バハマ、バルバドス、トリニダード・トバゴ、グレナダ、ガイアナ、フランス語のハイチを除けば、運河の国パナマも、社会主義の国キューバも、インカ文明の国ペルーも、すべてスペイン語国です。英語、フランス語国はほとんどカリブ海の小国に限られており、全体的にいえば、スペイン語一色といってもよいほどです。多くの国がスペイン語であるというこの現実は、いうまでもなく、各国が、16世紀以来、およそ300年にわたってスペインの植民地であったことを物語るものです。
各国に原住民のインディオがいます。エクアドル、ボリビア、ペルーなどの国では、国民の約半数がそのインディオです。カリブ海の国ぐには、アフリカからつれてこられた黒人もいます。ハイチでは90%以上がその黒人です。しかし、多くの国で絶対数を占めているのは、メスティソとよばれるスペイン人とインディオとの混血です。もちろん、純粋の白人もいます。そして、それらの白人系の人びとが、すべて国の指導権をにぎり、スペイン語国を維持しているのです。ところで、スペイン語であることに問題はないとしても、ながいあいだの植民地政策が、いまもってわざわいをもたらしていることがあります。一つは、農業にみられる大地主制と農作物の単一栽培制、もう一つは、鉱業の開発にみられる外国資本制です。バナナ、コーヒー、さとう、綿花などは、世界でも有数の生産高を誇っています。しかし、多くの国では、いまだに白人の所有になる大地主制が存続し、農作物も、白人の利益中心に生産されているのです。バナナの生産高が高いのは、大農園でバナナだけを生産して輸出することが、白人にとって、もっとも効率のよい利益にむすびつくからです。農業でうるおうのは、大地主と大商人に限られ、農民たちは、必然的に苦しい生活をしいられているというのが現状です。
石油、石炭、金、銀、鉄などの産出量も世界有数です。しかし、これらの多くは、外国の資本によって開発されたため、いまだに、開発自国への原料供給的な性格を大にしています。とくに、このラテン・アメリカを自国の勢力下におこうとするアメリカ合衆国の資本投下が、大きな力を占めています。これでは、いかに地下資源が豊富であっても、それぞれの国は富みません。さいきんは、各国で、農業、工・鉱業の国営化がすすめられてはいます。しかし、やはり、資本と労働力の不足や科学技術のたちおくれが、支障になっています。
さいわいに、このラテン・アメリカの国ぐにでは、住民構成が複雑ではあっても、また、白人優位の社会ではあっても、意図的な人種差別はほとんどありません。*[南アフリカ共和国のような原住民べっ視]も、非常に少ないといわれています。白人、インディオ、黒人、そして日本人を含むさまざまな国からの移住者が協力しあい、各国とも、独立経済の独立国家へ、文盲者の少ない文明国家へと発展しつつあります。
*[1991年、南アフリカ共和国のデクラーク大統領は、原住民べっ視のアパルトヘイト全廃を宣言し、差別はほとんどなくなりました]