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ワールド図書館(18) 「西アジア(2)」 巻末解説

前日(4/18号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第18巻「西アジア(2)」の巻末解説と、その後の変化を記した補足事項を記します。

「西アジア(2)」 について

『トルコ』 面積は日本のおよそ2倍の78万平方km。首都はアンカラ。言語はトルコ語。国民のほとんどはイスラム教徒です。国土の大部分はアナトリア高原のため、寒暑の差が激しい気候です。主産業は農牧業で、麦や果実、テンサイ、綿花、葉タバコなどを生産しています。ほかに、ビザンチン、イスラム両文化遺跡の観光資源があります。
[経済的、政治的にヨーロッパ諸国に近く、欧州連合(EU)に加盟を申請しているほどです]

『シリア』 面積はおよそ19万平方kmで、日本のほぼ半分です。首都はダマスカス。言語はアラビア語。宗教はイスラム教ですが、キリスト教徒も、約12%います。内陸部のシリア砂ばくは、国土の半分を占めています。産業は地中海沿岸の農業が主です。

『イスラエル』 面積はおよそ2万平方km。首都はエルサレム。言語はヘブライ語とアラビア語。宗教はユダヤ教です。この国は、食糧の大部分を輸入に依存し、オレンジ、果実などを輸出しています。現在、アメリカ系の外資導入による工業化が進められています。
[2006年現在の人口700万人ですが、ハイテク産業では世界の最先端を行き、中東のシリコンバレーともいわれます]

『ヨルダン』 面積はおよそ9万平方km。人口構成はべドウィンが20%、定着民が45%、パレスチナ難民が35%です。首都はアンマン。言語はアラビア語。宗教はイスラム教です。イスラエルとの紛争で難民をかかえ、ヨルダン川以西の農耕地を失いました。国の経済は、わずかな農牧業と鉱工業にたよっています。
[2002年現在でも、人口550万人のうち難民は160万人といわれます]

『レバノン』 面積は約1万平方km。首都はベイルート。言語は主としてアラビア語をつかっています。宗教は、イスラム教とキリスト教が半々です。主産業は地中海沿岸の農業、ベイルートを中心とした商業、金融業などです。

これまでの長い世界の歴史をふり返るならば、西アジアほど民族の赤裸々な鼓動を感じる例はありません。現に今も、それは世界の舞台で脈打っているのです。
『子どもワールド図書館』シリーズは、子どもたちに世界各国の風俗習慣や、伝統文化といった国柄を伝えるために編集されています。そして、あの国は暑いとか寒いとか何が有名だとかいった表象的なものの陳列だけで終わらせることなく、今日の姿や依ってきたいわれを国々の風土や歴史に照合しながら、それらのひとつひとつがいかにそこに住む人々にとって重大であったか、人々の叡知がどのように凝結されてきたかなどを述べようとしています。こういうことを理解することが、真の理解であり、私たちおとなに必要なことはもちろん、ますます国際化した社会に生きねばならない子どもたちには、一層要求されるものなのです。
そんな観点で西アジアについていうならば、何よりまず、風土と人間のかかわり、そしてそこから興ったユダヤ教・キリスト教・イスラム教の展開、さらに戦後では、イスラエル建国を起点とした新たなイスラエル・アラブ民族の対立抗争、加えてアラブ産油の動向に憂慮する世界の今日的情勢が挙げられると思います。
サウジアラビアで触れたように、イスラム教の興りも、それに先立つユダヤ教・キリスト教の興りも風土的条件は一つであり、歴史の展開のなかで、あるものは漂い、あるものは台風のように列国を席巻し、権力抗争の場にさらされ、やがてこの本にとりあげた地中海の回廊に列する国々は流血と戦塵の巷に明滅するのです。
この十字軍とセルジュークトルコの長い抗争の後は (オスマントルコの統合衰微を経て)、列強の帝国主義に侵食され、第2次大戦を契機とした独立まで続くのですが、その民族意識の高揚は、ユダヤ人のイスラエル建国により、さらに汎アラブ的な民族主義の覚醒と戦火を呼ぶのです。
私たちの記憶にある中東戦争は4度に及び、やがては、パレスチナ・ゲリラによるハイジャック事件等、国際的世論へ提訴するイスラエル・アラブ諸国の対立は、長い歴史の中の途方もない因循を感じさせます。幸いにして最近、やっと平和の調印にまで運び入れましたが、平和の均衡が永遠なものであることを改めて願うのみです。

補足事項
世界中でも「西アジア」の情勢は、きわめて不安定です。その要因のひとつに、エルサレムの問題があります。本文でもふれたとおり、エルサレムは、ユダヤ、キリスト、イスラムの3宗教にとって共通の聖地で、その帰属問題は、アラブ・イスラエル紛争の最大の難題です。イスラエルとアラブ諸国との対立は、4回にわたる中東戦争をへて、現在までつづいています。さらに、イスラム諸国間でも、1980年から1988年までつづいたイラン・イラク戦争など、その覇権をめぐる対立もあります。
1990年にはイラクのフセイン政権は隣国のクウェートに侵攻し併合を宣言。これに対し国連はイラクにクウェートからの撤退と制裁を決議しました。決議をこばんだイラクに、アメリカを中心とする国連は多国籍軍を組織して出動、湾岸戦争が勃発しました。1か月半にわたるはげしい武力衝突の末、イラクはクウェートから撤退し停戦しましたが、さまざまなシコリが残されました。
2003年3月、アメリカのブッシュ政権は、イラクが国際テロ組織を支援、大量破壊兵器の開発・製造を行なっているとし、国連の武力攻撃容認決議を得ないままイラク戦争を開始、1か月ほどでフセイン政権を倒し勝利宣言をしました。しかし、いまだにイラク国内はイスラム・スンニ派とシーア派、クルド人と3大勢力の対立による内戦状態、無政府状態にあると報道されています。
2006年に入ってからも、イスラエルがイスラム武装組織ヒズボラ鎮圧を目的にレバノンに侵攻するなど、「西アジア」の情勢から目をはなせない状況が、当分続きそうです。

投稿日:2007年04月19日(木) 09:56

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)