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ワールド図書館(15) 「東南アジア (2)」 巻末解説

昨日(4/10号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第15巻「東南アジア(2)」の巻末解説を記します。

「東南アジア(2)」 について

東南アジアの中でも、ここでとりあげたマレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピンの4か国は、赤道のまわりに点在するたくさんの島々から成り立っています。熱帯雨林気候でありながら、季節風の影響で気温はやわらげられ、人間にとって暮らしやすい環境です。そのため、この地域には*[2億あまり]の人が住んでいます。なかでも、インドネシアの人口はとびぬけて多く、世界の大国と肩を並べて*[第5位]を占めています。これほど多くの人が集まっているのは、気候、風土の条件の良さとともに、地理的重要性もみのがせません。ここは西ヨーロッパと東アジア、アジア大陸とオーストラリア大陸をつなぐ世界交通路の交差点なのです。はやくから、この地に人間が集まってきたのも歴史の必然といえるでしょう。ヨーロッパ列強国にとって、ここの島々は、ぜひ手に入れたい場所でした。南国の豊かな自然は、人間に必要なさまざまな産物をもたらしてくれます。石油やスズ、ゴムはもちろんのこと、熱帯地方特産の香料は、イギリスやポルトガル、オランダなどの触手を刺激しました。そして、ついにマライ半島はイギリスの、インドネシアがオランダの、フィリピンがスペインの植民地にされてしまったのです。16世紀半ばから19世紀にかけてのことです。こうして、第2次世界大戦までの300年にわたる年月を、南海に浮かぶ島々の人々は、圧迫と屈辱の中に生きてこなければなりませんでした。
*[2005年現在の人口は、マレーシア2530万人、シンガポール430万人、インドネシア2億2280万人、フィリピン8310万人、計3億3000万人以上。インドネシアの人口は、中国、インド、アメリカ合衆国についで世界4位です。]

支配国は、大農園を経営し、鉱山を開発し、街を整備しました。しかし、その利益は、現地をうるおすことなく全部支配国に持ち去られ、現地人は奴れいの如く働かされ、もちろん、教育など放置されたまま3世紀にもおよんだのです。こうした圧迫に対して、インドネシアやフィリピンでは激しい民族解放運動が起こりました。スぺインの圧力に抵抗し、フィリピン人民解放のために35年の生涯を燃やし尽したのが、ホセ・リサールです。リサールは獄中で、祖国への訣別の詩を書き、それをアルコールランプの中にしのばせて妹に手渡し、処刑場におもむきました。「愛する母国よさようなら! 南の太陽に抱かれるいとしい国よ! 東の海の真珠なる国よ、ああ奪いとられたる楽園よ!」 という、愛国の情あふれる言葉で始まるこの詩は、いまも、フィリピンの至宝となっています。

第2次世界大戦で、ヨーロッパ諸国にかわって、この楽園を踏み荒したのは、アメリカと日本の軍靴でした。戦後まもなく、インドネシアとフィリピンは独立し、それぞれの道を歩き出しましたが、大戦や植民地時代に奪われたものはあまりにも大き過ぎました。マレーシアとシンガポールには、いまもってイギリスの力が大きく及んでおり、そのために隣国インドネシアとのあいだもうまくいきません。

東南アジアには、多くの人種が集まっていますが、中でもマレーシア、シンガポールは人種のるつぼといわれるほどの多民族国家です。人種によって、もちろん言葉も違い、宗教も職業までも違っています。これは、単一民族、同一言語の日本には想像もつかない困難さを抱えているといえるでしょう。それに加えて、教育の遅れ、資本の不足、技術の後進性などが、工業の発展を大きくはばんでいます。戦争の賠償で、近代的なホテルや工場も建てられ、道路なども整備されましたが、それは大都市に限られています。農村地方は電気も水道もない村などめずらしくありません。豊かさと貧困、近代化と未開がとなりあわせているのが現状です。これらの国では、大国からの経済・技術援助を望みながらも、援助という名の植民地化をとても恐れています。それは長いこと国を奪われていた民族の持つ恐れとして当然のことでしょう。

投稿日:2007年04月12日(木) 09:29

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)