前日(4/24号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第21巻「アフリカ(2)」 の巻末解説と、その後の変化を記した補足事項を記します。
「アフリカ(2)」 について
産業の不振とともに、アフリカの多くの国ぐにがかかえている大きな問題の一つに、人種の複雑さがあります。アフリカ大陸には、*[4億をこえる人びと]が住んでいます。そのほとんどは原住民です。
*[2002年現在の人口約9億人]
植民地時代が終わったあとも、地下資源の開発などにともなって、ヨーロッパ人の侵出がふえてはいます。しかし、白人たちの総数は、1000万人をこえるまでには至っていません。しかも、その白人たちの多くは、南アフリカ共和国やアルジェリアや*[ローデシア]などに、片寄って住んでいます。したがって、南アフリカ共和国などを除く多くの国ぐにでは、100人のうち99人までが原住民だというわけです。ところが、その原住民が、あまりにも複雑なのです。アフリカ原住民のあいだには、現在も、1000種ちかいことばが使われ、ことばのうえから分類すると、1000種ちかい部族が住んでいることになるのです。
*[ローデシアは、ザンビア、ジンバブエを合わせた白人政権が用いた名称]
部族間で異なるのは、もちろん、ことばだけではありません。牧畜や農業を営む部族から、木の実や野獣の肉を食べて生きる部族まで、生活習慣は、これも分類できないほどさまざまです。定住の民もいれば、遊牧の民もいます。イスラム教やキリスト教のほかに、小部族が信仰を続ける伝統宗教も残っています。このような人種の複雑さが、とうぜんのことながら多くの国の国民構成の複雑さを生み、それが、独立国としての民族的な国のまとまりのむずかしさとなって、現われているのです。
そのうえ、これだけは共通の文盲率の高さが、その国のまとまりのむずかしさに、さらに拍車をかけています。それぞれの国が、高い文盲率の解消を図りながら、いかにして、異種部族からなる国民の統一を推進していくか。これは、アフリカ全体にのしかかっている民族的課題だといえるようです。
人種の問題にからんで、もう一つ、早急に解決されなければならないことがあります。それは、ローデシアおよび南アフリカ共和国における人種差別(アパルトヘイト)の問題です。ローデシアでも南アフリカ共和国でも、白人が、政治と経済の実権をにぎってしまっています。とくに、南アフリカ共和国では、白人たちは、人種差別の法律まで作り、黒人たちを、政治はもちろん、社会からもはじきだしてしまっています。黒人たちの教育水準が少しずつ向上してきて、白人たちの立場がおびやかされるようになったことから、人種隔離政策による一定居住地への黒人の封じ込めなど、横暴な白人防衛策をおしすすめているのです。
これでは、近代国家への発展など、のぞめるはずがありません。植民地時代となんら変わらないどころか、むしろ後退です。
この南アフリカ共和国の人種差別に対しては、アフリカ全土の黒人たちが、「アフリカ人のためのアフリカ」 と叫びながら、なかまたちの解放のために闘っています。また、世界の国ぐにも、きびしい批判の目を向けています。しかし、早急な解決はのぞめそうにもなく、かりに解決へ向かったとしても、白人と黒人の対立が、ながく尾をひくことは、まちがいありません。
この人種差別が存在する限り、アフリカ大陸にも、そしてアフリカ人にも、ほんとうの平和はおとずれません。
多くの国にみられる白人の大企業独占を排除していくことなども含めて、白人の優位意識が消え去ること、そのためには、文盲社会の解消等によって、アフリカ人たちの力が向上していくことを、期待したいものです。
アフリカ諸国の発展に対する、世界の人びとの積極的な理解と協力がのぞまれます。
補足事項
1989年に南アフリカ(南ア)大統領に就任したデクラークは、アパルトヘイト撤廃の政治方針を固め、1990年、27年におよぶ獄中生活をしいられていた黒人解放運動家マンデラを釈放しました。マンデラは南アのアパルトヘイト政策の完全撤廃を国際世論にうったえるために、欧米14か国はじめ、日本にも訪れました。一方、デクラーク大統領も欧米を訪れ、南アのアパルトヘイト改革の努力を説明するとともに、国連で決議された経済制裁の緩和と見直しを求めました。こうして、マンデラ、デクラーク両氏の登場によって、南アに新しい社会の創造をめざす対話の時代をむかえました。そしてついに、1991年、デクラーク大統領は「新・南ア宣言」を発表。アパルトヘイトの全廃を宣言しました。宣言は、すべての人は、法のもとに平等であり、人種、肌の色、性別、宗教にかかわらず、平等の権利を享受できるとしています。撤廃後も、アパルトヘイト時代の白人と黒人の間の教育水準格差は歴然としていたため、黒人の失業率が白人を大きく上回っていました。しかし、最近になってこの差も急速に縮小しているようです。