前回(5/14号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第25巻「アメリカ(1)」の巻末解説を記します。
「アメリカ (1)」 について
アメリカは広大な国です。*ソビエト、カナダ、中国についで世界第4位ですが、日本のざっと25倍もの広さがあります。ロッキー山脈だけで、日本列島がすっぽり入ってしまいますし、五大湖のひとつ、スペリオル湖が北海道とほぼ同じ大きさといえば、アメリカがいかに広大な国であるかがよくわかります。
*ロシア共和国
アメリカの北と南、東と西では、まったく気候風土がちがいます。北は北極圏のなかにあり、南は熱帯、内陸は砂漠気候といった具合です。おなじアメリカ国内でも最高7時間もの時差があります。空港に防寒服を着込んだスキー帰りの人がいるかとおもえば、ビーチスタイルの人もいるといった光景が見られるのも日本とちがうところです。
そのアメリカがイギリスの植民地から独立したのは、いまから、わずか200年前のことです。しかし、民主主義の成文憲法をもつ国では、世界でもっとも古い国です。フィラデルフィア憲法制定会議からつくりだされた新しい共和政治は、近代世界のモデルになっています。アメリカは自由と平等、個人の基本的人権を尊重する民主主義の国です。自由を愛する精神は、イギリス本国の迫害をのがれ、新大陸へわたって植民地をつくったピューリタンの影響を、今日にまで受け継いでいるからだといわれます。アメリカは、英語でユナイテッド (連合) ステーツ(州) といいます。つまり州の集合国ですが、日本の都道府県とアメリカの州の性格は、きわだったちがいがあります。アメリカでは州の自治がおもんじられ、国と州の役目がはっきりわかれています。州ごとの法律があって、教育制度にもちがいがあります。州兵という制度もあります。州兵は州知事のもとにあって、州の自治を守る役目をもっています。これは植民地時代に、それぞれの植民地が自分たちの政府と民兵をもっていた名残です。
浅い歴史のなかで、すばらしい発展をとげたアメリカですが、一朝一夕に超大国に成長したわけではありません。独立戦争や南北戦争、きびしい自然と闘いながらのたゆまぬ開拓など、多くの困難を不屈の精神で乗り越えてきたからです。また、第1次、第2次世界大戦で戦勝国になり、しかも自国が戦場にならなかったことも、アメリカ経済を飛躍的に発展させる要因になりました。
広大な国土と豊かな資源を背景に、新しい技術の開発と活用によって、発言力の強い超大国となったアメリカですが、公害をはじめとする発展のひずみや複雑で深刻な、さまざまな問題も数多くかかえ 「悩める大国」 の一面ももっています。皮ふの色の違いによる人種差別もそのひとつです。とくに黒人差別はひどく、黒人人権運動の指導者キング牧師の暗殺や暴動など、つねに大きな社会問題になっています。ウォーターゲート事件によってさらけ出された大統領の権力の肥大化も国民の危機感を強めています。悲惨だったベトナム戦争も、大統領の権力肥大化が大きな要因となったからです。ベトナム戦争もウォーターゲート事件も、大統領個人の失敗や悪事では片づけられない、アメリカそのものの悲劇となっています。黒人差別が自由と平等の国に存在しているところにも、アメリカの矛盾と悩みがあります。
18世紀末のアメリカには、すばらしい人類の夢と人間解放の理想がありましたが、いま大きな曲り角に立っています。政治、経済、文化のあらゆる面で反省の時代を迎えました。しかしアメリカの偉大なところは、民主主義が危機に直面したとき、国民が敢然と立ち上がることです。開拓精神は、いまもずっと生き続けています。
*その後の歩みにつきましては、次回「アメリカ(2)」の巻末にまとめて記載します。