前回(4/16号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第17巻「西アジア(1)」の巻末解説を記します。
「西アジア(1)」 について
『サウジアラビア』 面積は日本の約6倍、*[人口は1/12]。人口の約半分が遊牧民。国語はアラビア語。イスラム教の発祥地で聖地メッカをもつ。石油の埋蔵量、輸出量とも世界一で、国家財政の95%以上が石油収入。
*[2005年現在の人口2460万人、日本の人口の1/5]
『イラン』 面積は日本の約4倍、*[人口は1/3]。ペルシア人70%、トルコ人25%の構成で、国語はペルシア語。宗教はイスラム教。イラン高原が国土の大部分を占め、そのオアスに昔ペルシアが栄えた。78年末から79年はじめにかけて、王制反対の暴動がおこり、79年1月には国王を出国させ、ホメイニ師を指導者とする新たな歩みをはじめた。日本は従来イランから約20%の石油を輸入していたため、今後の動きが注目される。世界有数の石油産出国。
*[2005年現在の人口6950万人、日本の人口の1/2]
『イラク』 面積は日本の約1.2 倍、*[人口は1/10] で約75%がアラブ人。国語はアラビア語。宗教は96%がイスラム教。チグリス、ユーフラテス両大河の流域は古代メソポタミア文明の発祥地。石油が主産業、北部は小麦の穀倉地帯。
*[2005年現在の人口は2880万人、日本の人口の1/5]
『クウェート』 面積は九州の半分位、*[人口は日本の1/100}。クウェート人47%、パレスチナ人20%、国語はアラビア語。宗教はイスラム教。*[1人当りの所得は世界で1、2位を争う文字通りの石油王国。埋蔵量は世界第2位]。
*[2004年現在の人口270万人、日本の1/50。人口の増加により、1人当りの所得は日本の半分程度に下がっています。石油埋蔵量は、サウジアラビア、イラク、イランに続き世界4位]
『イエメン』 [北イエメン (イエメン・アラブ共和国) と南イエメン(イエメン民主人民共和国)にわかれていて、統一運動もあったが失敗するなど国情は不安定。南イエメンはアラブ唯一の社会主義国]。
*[北イエメンと南イエメンは1990年に合併し「イエメン共和国」となり、アラブ諸国で社会主義国はなくなりました]
以上、この巻でとりあげた西アジアの国々の概略です。西アジアをテレビや新聞の報道では 「中東」 といっています。これはイギリスの呼び方でロンドンを起点として日本など遠いところが「極東」であり、バルカン諸国が「近東」、西アジアがその中間で「中東」というわけです。かつて第2次大戦の頃まで、イギリスの植民地政策は西南アジアにまで侵食していました。
中東はよく世界のニュースソースになります。最近では国境紛争が激化しています。大地震が続発したかと思えばクーデターが起こったり、その後も民衆の暴動が勃発しました。ひところは、いわゆる「石油ショック」で世界を震撼させ、中でも石油資源に頼る日本は、それまでの高度経済成長がとたんに、冷水を浴びせかけられたように弛緩し、以後、安定成長に置きかえられて、遅々として不況の中を歩んでいます。イランとアラビア半島に浮かぶこれらの国々は、産油国として戦後航空機の発達や、世界の経済成長とあいまって、にわかに脚光を浴びたのです。炎暑と砂漠のイメージが、こうまで変容しようとはマホメット(ムハンマド)すら予見しえなかった事でしょう。
童謡「月の砂漠」にロマンを馳せるよすがは変貌し続ける時代にあっては、遠い夢幻の彼方へ求めるしかありません。しかしこれらは私たちが、日常の伝達の中から、かいまみる表象的なものであり、そこに横たわる無辺の砂漠や高地は、依然として古来悠久の姿で息づいているのです。気の遠くなるような炎熱は今も天地を焦がしています。石油開発による必然的な近代化の導入がなされても、それはごく一部で、アラブの人々のほとんどはイスラム教の信仰の中に生きています。サウジアラビアには聖地メッカがあり、きびしい戒律が生活に一体化されています。
遠く離れた私たちに奇異にさえ映る戒律や風習は、苛酷な大自然の中から逃がれえない人々の生への願望であり、超大な大自然への畏敬でもあります。人々が神の教えを求めたのです。そうした自然と人間のおりなす営みが長い歳月の中に風化され侵食されてもなお息づき燃えている、それがこの巻でとりあげた国々です。
「西アジア(1) 」の補足事項は、次回「西アジア(2)」 の巻末にまとめて記載いたします。