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ワールド図書館(16) 「南アジア」 巻末解説

前回(4/12号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第16巻「南アジア」の巻末解説と、その後の変化を記した補足事項を記します。

「南アジア」 について

インドが他の国と違っているとすれば、何よりもその文明の連続性にあるといえます。もともと中央アジアの遊牧民だったアーリア人は、紀元前1500年頃、インドに侵入し、先住民族と混ざりあい、ヴェーダ文化をつくりあげました。この文化が思想、文芸、社会のしくみなどインド世界の祖になるもので、ヒンズー教に支えられ、連綿と今に続いています。古いインドの叙事詩 「ラーマーヤナ」 を例にとれば、10〜11月の祭りの季節にラーマリラという芝居小屋が各地にたち、連日 「ラーマーヤナ」 の劇が上演されます。こうして大人も子どもも神話や伝説に親しんでいて、今でも、ラーマ王子は、国民の英雄であり、理想の男性になっています。

インドは歴史の流れのなかで、他民族の侵入が多く、仏教、イスラム教、キリスト教という三大宗教に関わってきましたが、なおヒンズー教は、インド人の精神文化にとってかけがえのないものとして、現代にいたっています。近世、インドはイギリスによって支配を受け、深い痛手を負いました。1600年にイギリスが東インド会社を設立し、対インド貿易を行っていた頃のインドは、ムガール帝国が栄え、綿織物、砂糖、香辛料などの輸出、多大な銀の流入などで物資の豊富な富める国でした。しかし、1853年奸智にたけたイギリスによって、植民地にされたインドは、自国の産物を使った製品を輸入する、植民地型といわれる経済によって、転落して行きました。1947年に独立したとはいえ、世界のすう勢として、先進国が近代的な国家と経済を建設しているその大事な時期に、やむなく支配を受けたインドには、大いなる貧しさが残されました。

その後、あらゆる方面から、本来の豊かな国への努力がはらわれ、昨今は特に科学技術をテコに、貧困を解消しようとしています。原子力や試験管ベビーなど、世界のトップグループにあるものから、農村向けの廃物利用によるポンプとか、牛ふんガス装置など、生活の実情にあったきめ細かな技術開発が進められています。農村では、農業技術の改善はもとより、手工業を残し、国民の大部分をしめる農民の経済と技術を破壊しないように計られています。また、インドでできるものは輸入しない考えの鎖国的経済体制は、独自の経済たて直し策であり、副次的に、やたらな外国文化の侵入が妨げられるため、よりインドらしい世界が保たれているというわけです。

現在、インドは *[6億8千万]の人口を抱えています。食糧を自給できず飢えに苦しむ人が多かったインドにも、1973年には、小麦の備蓄ができ、ソビエトに米を輸出するまでになりました。国土が広く、豊かな太陽と地下資源に恵まれ、労働力のあるインドは、伸びつつある古くて新しい国といえるでしょう。
*[2005年現在のインドの人口11億340万人、パキスタンの人口1億6000万人、バングラデシュの人口1億4000万人、3国あわせると世界一の中国13億人を超えてしまいます]

インドのまわりには、ヒンズー世界と異ったいくつかの国があります。パキスタンとバングラデシュ、アフガニスタンはイスラム教の国です。ネパールには仏教の一派ラマ教徒が、スリランカには小乗仏教が生きています。インドも含めて南アジアの国ぐには、日本と違い宗教と生活が密接につながっており、社会の秩序を保つかわり、それが近代化をはばむ一因にもなっています。人口が多く農業国であり、大部分は一生小作人のままで終わり、一部の人をのぞいて教育が遅れていることなども、共通していることです。南アジアは、1人当たりの国民所得が、世界でも低い地域で、若い独立国同様、外国からの援助を頼まなければならず、経済自立のために苦悩しています。

補足事項
現在インドは、ブラジル、ロシア、中国と並んで「BRICs」(ブリックス)とよばれる新興経済国群の一角にあげられています。特にIT産業や製造業を中心とした経済成長に、世界の注目を集めています。

投稿日:2007年04月16日(月) 09:15

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)