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ワールド図書館(6) 「スイス・オーストリア」 巻末解説

前回(3/22号)に続き、25年ほど前に初版を刊行した「子どもワールド図書館」(38巻) 第6巻「スイス・オーストリア」の巻末解説と、その後の変化を記した補足事項を記します。

「スイス・オーストリア」 について

[スイス] スイスは、ヨーロッパの屋根といわれるアルプス山中にある美しい観光国です。大きさは日本の九州とほぼ同じですが、人口は福岡、長崎、佐賀県をあわせたくらいです。山国なので、畑が全国土の1/10ほどしかなく、そのために谷間や山の斜面を利用した牧畜が盛んです。牧草地を含めた牧場は国の広さの半分を占めていて、そこに200万頭近くの牛が飼われています。そして、生産される豊かな牛乳から有名なスイスチーズや粉ミルク、ミルクチョコレートなどが作られます。それらは世界中に輸出されてスイスを富んだ国にさせています。ところでスイスは、酪農の国であるばかりでなく工業の国でもあります。石油も石炭も、鉱産物もなく、おまけに交通の不便なスイスを工業国にさせた原因はいったいなんなのでしょうか。
スイスの人たちは、むかしから暮らしの助けに手内職をしてきました。部品を農村で作り、それを都市で組み立てる家内工業です。やがて水力発電がおこりました。動力と技術が結びついて、小規模でも作れる時計や宝石細工などのような工業が発達しました。その技術は他の国ではまねのできないほど優れていたので、いよいよ栄えました。いまでは、精密工業以外にも、チューリヒを中心に綿工業、機械工業、高級絹織物業などが盛んで、特にししゅうは世界的に有名です。じかに外国から原料を買わずに、綿糸布やせん鉄などの半製品を買い、それを独自の技術で仕上げる方法で、大量生産するほかの国と対抗しているのです。
アルプスの山の中にある小さな国スイスが、りっぱな工業国になれたのには、もうひとつ大事なわけがあります。それはスイスが、1815年に永久にほかの国と戦争をしないことを宣言し、ほかの国々からも独立と領土の安全を保障された 「永世中立国」だからなのです。戦争による破壊とむだに苦しむことなく、生産と暮らしの向上に力をそそぐことができました。
スイスには、スイス語というものがありません。ドイツ系、フランス系、イタリア系などが地域的にまじり、したがって、ドイツ語、フランス語、イタリア語が正式の国語とされています。けれども寄りあい世帯でありながらスイスというひとつの国にとけこみ団結していて、人種間の争いがないのもこの国の特色といえましょう。

[オーストリア] オーストリアは、国土の2/3が山岳地帯のため、農業はふるわず、産業は鉄鉱石、黒鉛、銅、岩塩の生産が中心です。また、美しいドナウの流れと、音楽の都ウィーンで名高い新しい永世中立国です。1955年に中立を宣言したのですが、この宣言をするまでのいきさつは、スイスの場合とはだいぶ違います。この国は、ハプスブルク王家がたてたドイツ人の国で、13世紀以来、めざましい発展をとげ、後にオーストリア・ハンガリー帝国をつくって、18世紀には、全ヨーロッパの政治を左右するほどの勢力をほこったのです。ところがこの誇りがわざわいして、むだな戦争をくりかえしました。第1次世界大戦に敗れたあと、ドイツ人以外の民族がチェコ、ユーゴスラビア、ハンガリーなどの国となって独立したため、もとの国土の85%以上を失ってしまいました。つづいて第 2次世界大戦にも敗れ、ドイツと同じようにソビエト、アメリカ、イギリス、フランスの4国に管理されましたが、1955年に独立国の地位をとりもどし、世界に永世中立を宣言したのです。山ぐにの、しかも海に出口のないオーストリアが、ゆたかな国としてさかえるためには、どうしてもまわりの国々と平和なつながりをもたなくてはならないのです。

補足事項
スイスは、2002年に国際連合に加盟しました(EUには加盟していません)。 また、オーストリアは、1995年にEU(ヨーロッパ連合)に加盟し、2002年には通貨もユーロとなりました。そのため、両国とも厳密な意味での「永世中立国」とはいえなくなりました。

投稿日:2007年03月27日(火) 09:12

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)