こうすれば子どもはしっかり育つ「良い子の育てかた」 4
● 子どもの意思や主体性を尊重すること
「小学生になる前後」 (岡本夏木著・岩波書店刊) のなかに、5、6歳に対するしつけについての、すばらしい例がおさめられています。
ある家が遠くへ引っこしするとき、家で飼っていたイヌをどうするかが問題になりました。5歳になる男の子は、イヌもつれていくといいます。イヌと別れるくらいなら、ぼくはここに残ってひとりでくらすといいはります。でも、引っこし先は団地のアパートですから、イヌをつれていくことは、どうしてもできません。
さて、このとき、お母さんは、イヌをもらってくれる家へ、男の子にイヌを抱かせてつれていき、イヌを、男の子自身の手でむこうの人に手渡させました。もちろん、男の子は泣きどおしでした──というのです。
こんなとき、多くの親は、泣きわめく子どもからイヌをもぎとったり、子どものいないときに、こっそりイヌを他家へ渡してしまったりするのでしょうが、このお母さんは、子ども自身に、イヌに別れをつけさせたのです。
著者が、この例をあげたのは、「しつけにさいしては、親への服従をただ強いるのではなく、ひとりの人間としての子ども自身の誇りと自身を尊重してやる愛情こそ欠かせないものだ。強制的に、ひとつの行動を子どもに迫らねばならないときも、最後の一線では、子どもの最小限の意思とか主体性とかを尊重してやることがたいせつ」 という考えにもとづくものですが、ここには、しつけの基本が、きびしく語られています。
してはいけないこと・しなければいけないこと・たえなければいけないこと──などを、子ども自身に主体的に理解させていくことのたいせつさを、忘れてはならないようです。