本日掲載したグリム童話「おおかみと7ひきの子やぎ」は、英国レディバード社とのタイアップ企画「レディバード特選100点セット」の1点に収録されていますので、レディバッドブックスの絵と、該当部分の日本語訳を紹介してみましょう。
昔、7ひきのかわいい子やぎのいる、母やぎがいました。子やぎをみんな、愛情をこめてかわいがっていました。ただ一つ恐れていたことは、いつか、おおかみが子どもたちを捕えてしまうのではないかということです。ある日母やぎは、食べものをさがしに森の中へ入っていかなければなりませんでした。出かける前に彼女は、7ひきのかわいい子やぎを呼び寄せました。
「かわいい子どもたち」 と、彼女は言いました。「私がいない間は、おおかみが近くにこないように注意しなさい。ドアには鍵をかけておくの。もし、おおかみが入ってきたら、あなたたちはみんな食べられてしまうからね。変装してくるかもしれませんが、ガラガラ声とまっ黒な足で、おおかみだということがわかるでしょう」
子やぎは答えました。「お母さん、心配しないでちょうだい。私たちはよく気をつけます」そこで、母やぎは子やぎを家に残して森へ入っていきました。
ドアがノックされるまでには、長くかかりませんでした。誰かが大声で叫びました。「子どもたちや、おかあさんのためにドアを開けておくれ。みんなにおみやげを持ってきたよ」
しかし子やぎたちは、そんなガラガラ声がお母さんの声であるはずがないとわかっていました。「ドアなんか開けないよ」と、みんなで叫びました。「おまえは、お母さんじゃないよ。お母さんは優しい声をしているけれど、おまえの声はガラガラだもの。おまえはおおかみだ」
そこで、おおかみは店に行ってチョークをひと固まり買いました。声を優しくするために、それを全部食べてしまいました。彼はそれからやぎの家にもどって、ドアをノックしました。
「子どもたちや、お母さんのためにドアを開けておくれ。みんなにおみやげを持ってきたよ」と、おおかみは優しい声で言いました。
おおかみは話しながら、窓のさんに黒い足をのせました。子やぎたちは優しい声を聞いて、最初のうちはお母さんの声だと思いました。そのとき、黒い足が見えたので叫びました。「ドアなんか開けないよ。おまえはお母さんじゃない。お母さんは黒い足をしていないよ。おまえはおおかみだ」
この言葉を聞いて、おおかみはパン屋に走りました。「私は足にけがをした」 と、おおかみは言いました。「足に生パンをこすりつけてくれ」
パン屋はおおかみがこわかったので、言われたとおりにしました。
次におおかみは粉屋に走りました。「小麦粉を私の足にふりかけてくれ」 と言いました。
粉屋は思いました 「おおかみは誰かをだましたいと思っているな」 そこで、彼は断りました。すると、おおかみは、「私の言うとおりにしないと、おまえを食べてしまうぞ」。 それで粉屋は恐ろしくなって、おおかみの足に小麦粉をふりかけました。
おおかみはやぎの家にひきかえすと、3たびドアをノックしました。「子どもたちや、お母さんのためにドアを開けておくれ」 と、彼は言いました。「みんなにおみやげを持ってきたよ」
子やぎたちは優しい声を聞きましたが、まだ警戒していました。「はじめに足を見せてちょうだい」 と叫びました 「私たちにお母さんかどうかわかるように」
おおかみは窓のさんに足をのせました。子やぎたちは白い足を見ると、ほんとうにお母さんだと思いました。彼らはドアを広く開けました、すると、そこにはおおかみが立っていたのです。
子やぎたちは、恐れおののき、身をかくそうと走りました。1ぴきは机の下にかけ込み、2ひき目はベッドの中にとび込み、3びき目はストーブの中に、4ひき目は台所に、5ひき目は戸棚に、6ひき目は洗い桶の下に、そして7ひき目は時計の中にとび込みました。
おおかみが子やぎたちを見つけるのには、たいして時間がかからず、次から次と、できるだけ速く子どもたちを飲み込んでしまいました。時計の中にかくれていた1番年下の子やぎだけが、おおかみに見つかりませんでした。
6ひきの子やぎを飲み込んでしまうと、おおかみは眠くなりました。彼は牧草地にはいり、木の下に横になって、すぐにぐっすり眠ってしまいました。
まもなく、母やぎが森から家へ帰ってきました。なんという光景が目にうつったことでしょう。家のドアは広く開いたままでした。テーブルもいすもひっくり返されていました。洗い桶は粉々にこわれていました。枕もふとんもベッドから引きずりおろされていました。
母やぎは7ひきの子やぎをさがしましたが、どこにも見つかりませんでした。それで絶望して、彼女は子やぎの名前を1ぴきずつ呼びました。最後に7番目の子やぎの名前を呼ぶまで、誰も答えませんでした。彼女がその名前を呼ぶと、小さな声が答えました。「お母さん、私は時計の中よ」
大喜びで、彼女は小さい子やぎを時計の中から出してやりました。子やぎは、どのようにしておおかみが他の6ひきの子やぎを食べてしまったのかを、話しました。その悲しい話が終ると、母やぎと7番目の子やぎはいっしょに泣きました。
しばらくして、かわいそうな母やぎは、かわいい子やぎを連れて外に出て、悲しげに牧草地をさまよいました。そこには、木の下で、おおかみがぐっすり眠っていました。たいへん大きないびきをかいていたので、木の枝がふるえるほどでした。
母やぎは眠っているおおかみのまわりを歩き、大きなふくれたお腹を見ました。もっとよく見ると、何かがおおかみのお腹の中で動き、もがいているように思えました。
「これはこれは」 と、彼女は叫びました。「おおかみの飲みこんだ子やぎたちが、まだ生きているのかしら」
「すぐに家にもどりなさい」 と、母やぎは7番目の子やぎに言いました。「はさみと針と糸を持ってきておくれ」
それから、母やぎはおおかみのお腹を切り開きました。はじめに少し切ると、1ぴきのかわいい子やぎの頭がひょいと出てきました。
彼女がおおかみのお腹をさらに切っていくと、もう1ぴき、またもう1ぴきというように、子やぎたちがとび出しました。とうとう、6ぴき全部が生きたまま自由になりました。どれも傷ついていませんでした、というのも、おおかみは食い意地がはっていたので、子やぎたちを丸のみにしてしまったからです。
子やぎたちはまたみんないっしょになれて、なんと幸せだったことでしょう。かわいそうな母やぎはまた泣きましたが、こんどは嬉し泣きでした。7ひきの子やぎたちは幸せそうに、眠っているおおかみのまわりをとんだりはねたりしました。
しかし、すぐに母やぎはみんなに話しかけました。「大きな石をさがしてきなさい。そして、それを私のところに持ってきなさい」
そこで、7ひきの子やぎたちは見つかるかぎり大きな石をさがし、それをおおかみが寝ているところへ持ってきました。
母やぎはできるかぎり多くの石を、おおかみのお腹の中に入れました。それから、すばやくお腹を縫い合わせました。おおかみはその間じゅう大いびきをかいて寝ていて、何が起ったのかわかりませんでした。
とても長いこと眠った後、おおかみは目を覚まし、のどがかわいていたので水を飲もうと井戸の方に行きました。彼が歩くにつれて、お腹の中の石がお互いにぶつかり合って、ゴロゴロ音をたてました。それで、おおかみは叫びました、
「何がゴロゴロ鳴ったりころがっているのだろう。私のあわれな体の中で。私は6ひきの若い子やぎを食べたのに。彼らは6つの石みたいだ」
おおかみはよろけながら、またゴロゴロ音をたてながら、長い時間かかって井戸に着きました。水を飲もうと身をかがめると、お腹の中の重い石が、彼をぐらつかせました。おおかみはボチャンとびっくりするような音をたてて、井戸の中にまっさかさまに落ちてしまいました。
やぎと子やぎたちは、びっくりするようなボチャンという音をきくと、井戸にかけていきました。おおかみがおぼれてしまったのを見て、大喜びでした。
「おおかみが死んだ。おおかみが死んだ」 と叫びながら、みんなでとびまわりました。母やぎが森に行くとき、もう、子やぎたちをおいていくのをこわがる必要はありませんでした。