1987年に刊行した英国レディバード社とのタイアップ企画第3弾、「レディバードブックス特選100点セット」のうち、作品内容を紹介してみよう。今回は、アイルランドの作家オスカー・ワイルド(1856-1900)の「幸福の王子他」の第2回目。
● 「幸福の王子」全文2
でも、とうとうツバメは、自分が最後に残ったツバメだとわかると、そのアシに別れを告げ、飛びたっていきました。
その夜、ツバメは町にやってきました、そして、疲れていたので、止まって休むことにしました……どこで休んだと思います? なんと、高い柱のてっぺんの、ちょうど幸福の王子の足の間だったのです! 小さなツバメがちょうど眠ろうとしていたとき、しずくが1つ頭に落ちてきました。ツバメは空を見上げましたが、雲ひとつ見えません。そのとき、またもう1つしずくが落ち、続いてもう1つ落ちてきました。ツバメはもう一度見上げ、彼をぬらしたのが雨でないことを知りました。それは、涙だったのです! 涙は、像の目から落ちてきていたのです!
「あなたは誰なのですか?」 ツバメはききました。
「私は幸福の王子だよ」 像が返事をしました。
「それなら、なぜ泣いているのですか?」 ツバメがききました。
「この町の中に見える、不幸なできことのために泣いているのだ。私が宮殿にいたころは、こんなことはまったく知らなかった。でも、この上にいるとすべてが見え、私をたいへん悲しませるのだよ」
「何が見えるのですか?」 ツバメがききました。
「はるか遠くのみすぼらしい路地に、窓の開いている家がある。部屋の中には女の人がいて、女王の侍女たちが舞踏会に着ていく美しい服を縫っているのだ。彼女のそばのベッドには、小さな息子が寝ている。その子はとても具合が悪いのだが、医者に来てもらうお金がない。子どもに、水以外の何ものも与えることができないのだ。このぶんでは、あの子は死んでしまうと思う。小さなツバメくん、私の剣のつかから赤い宝石を取って、母親のところに届けてくれないか? それを売れば、食べものが買えるだろう。私の足はこの柱にくっついているから、自分で持っていってやれない」と、王子は言いました。
「でも、私はこれから南へ行くところなんです」と、ツバメは言いました。
「みんなもう行ってしまっているんです。私も早く行かないと、迷ってしまうでしょう」
「お願いだ、小さなツバメくん、たった一晩でいいからここにいて、私の言うとおりにしておくれ」 王子は頼みました。
「私は男の子たちがあんまり好きじゃないんです。石を投げてきたりする子がいるし」と、ツバメは言いました。
「この子はものすごく具合が悪いのだよ。お願いだ、小さなツバメくん」
「わかりました。それじゃあ、一晩だけですよ」
そこで、ツバメは赤い宝石をつついてとり出すと、くちばしにくわえて飛んでいきました。途中、女王の侍女が住んでいる大きな家のところを通りました。「舞踏会までにドレスができてるといいのだけれど。あのなまけものの奥さんは本当にのろい。もっと早く仕事をしてくれなくちゃ、間に合わないわ」 ツバメは、彼女がこう言っているのをききました。
小さなツバメはさらに飛んでいき、あの貧しい家にやってきました。男の子は寝返りをうっていましたが、母親はあまりに疲れていたので、テーブルの上に顔を伏せて眠ってしまっていました。ツバメは窓から入っていって、彼女の指ぬきの近くに赤い宝石をおきました、そうすれば、彼女が目を覚したとき、それが目に入るからです。それからツバメは、病気の子どものベッドへ飛んでいって、羽であおいでやりました。
「ああ、なんて涼しいんだ!」 と、男の子は言いました。「きっとぼくはよくなっているんだ」そして、その子は眠りにつきました。