1987年に刊行した英国レディバード社とのタイアップ企画第3弾、「レディバードブックス特選100点セット」のうち、フランスの作家ジュール・ベルヌ(18428-1905)の「80日間世界一周」の第3回目。
●「80日間世界一周」全文 その3
鉄道は、次の駅の50マイル手前でとまっていたのです。乗客たちは、そこまで行く道を自分で工夫しなくてはなりません。パスパルトゥーはすばやく考えました、そして近くの村まで走りました。彼はまもなく、主人のためによいニュースを持ってもどってきました。
「ご主人!」 彼は興奮しながら叫びました 「象を持ってる男をみつけてきました。彼は、次の駅まで我々を連れていってくれますよ」
まもなく一行は、象の背中に乗ってカルカッタへいく道をガタゴトゆれながらいきました。しばらくいくと、前方に奇妙な音がきこえてきました。象使いは象を停止させ、きき耳をたてました。
「山賊かな!」 パスパルトゥーが言いました。
彼らはひそかに道から離れて動き、遠くからみるために木の間に隠れました。太鼓を打ち鳴らし、声をあげて泣き叫びながら、大きな葬式の行列が通りすぎました。ひとりの王様が死に、王は火葬されようとしていたのです。若くて美しい王妃アウダが、護衛に腕をとられ、連れていかれました。
「王妃に何が起きようとしているのですか」 フォッグがたずねました。
「王妃は死んだ夫のために、生きたまま火葬にされるのです」 と、象使いはささやきました。
「そいつはいけないな」 フォッグは言いました。「我々は王妃を助けださなくちゃいけない。行列についていこう」
安全な距離を保ちながら、一行は行列についていきました。行列が、ある寺院の近くに止まったとき、フォッグたちは木々の間にもう一度待機しました。彼らが見たとき、火をつけるための大きな丸太の山が積み重ねられていました、そして王の死体は、その上に置かれてありました。それから夜がふけると、護衛が若い妻を寺院の中に連れていきました。護衛たちは壁のまわりに立ちました。
暗くなってパスパルトゥーは、アウダを救うための計画を練りあげました。そして、夜明け前に彼は、音をたてずに火がつけられるところまではっていきました。そこからてっぺんまで登り、丸太のたばの中に隠れました。
朝の太陽の光が空に満ちたとき、怖れのために気が遠くなった愛らしいアウダは、護衛に葬式の火のところまで連れていかれました。護衛たちは、彼女をむりやり死んだ夫のそばに横たえさせました。騒々しい歌声が大群集のなかからわきあがり、もう一度太鼓が鳴りはじめました。それから火がつけられました。炎と煙が空にまきあがりました。フィリアス・フォッグが手にナイフを持ち、前方におどりでようとしたとき、突然、炎と煙のなかから、パスパルトゥーが火の真上に立ち上がりました。恐ろしさで、護衛と会葬者たちは、地面に平伏しました。「王様が生きている!」 と、誰かが叫びました。
パスパルトゥーは、炎のなかでアウダの腕をとり、火をとびこえ、安全なところまで彼女を連れて走りました。フィリアス・フォッグは、彼女らが象に乗るのを助け、急いで出発しました。うしろで弾丸が飛び、叫び声がひびきわたりました。こうして、うまく切り抜けることができました。象がすばやく地面を走り、危険が遠のいたころ、アウダは命の恩人たちにお礼を言いました。その美しい目は、喜びの涙であふれていました。
3人はその夜、次の駅までたどり着き、カルカッタ行きの列車に乗りこみました。フォッグは真剣に考えていましたが、やはりアウダがインドにいるのは危険だと思いました。そして、アウダの世話をしてくれる従兄弟のいる香港へ連れていこうと決めました。ところが、カルカッタで列車から降りるとき、一行はひとりの警官に呼び止められたのです。
「アウダを連れだしたことでとがめられたとしても」 フォッグは考えました 「アウダを死なせるようなところへ送り返すわけにはいかない」 と。ところがおどろいたことに、警官はパスパルトゥーを捕らえたのです、ボンベイのお寺でいさかいをおこした罪をとがめられたのでした。
法廷でフォッグは、召使の保釈金を支払うことにしました。法廷のうしろからそれを見ていた刑事のフィックスは、激怒しました。フォッグの逮捕状がまだ届いていないので、もはやフォッグをとどめておくことができなかったからです。
香港行きの汽船が出航しようとしていたちょうどそのとき、一行は大急ぎで乗船しました。航海の間、フィリアス・フォッグとアウダは、幸せな時間をすこしました。フォッグはアウダを優しく魅力的だと思い、アウダも、安全な場所へ連れてきてくれた、この気高く親切な紳士を愛するようになりました。