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80日間世界一周 8

1987年に刊行した英国レディバード社とのタイアップ企画第3弾、「レディバードブックス特選100点セット」のうち、フランスの作家ジュール・ベルヌ(18428-1905)の「80日間世界一周」の第8回目、最終回。

●「80日間世界一周」全文 その8


80日間22


フォッグはリバプールに上陸したとき、安心だと思いました。ロンドンには6時間で着くし、まだ9時間残っていたからです。
そのとき、彼は肩に誰かの重たい手がおかれるのを感じました。
「女王陛下の名においてあなたを逮捕します」 フィックス刑事が言いました。
パスパルトゥーはこぶしをあげましたが、警官にその腕を押さえられ、フォッグは税関の独房に押しこめられてしまいました。
哀れなパスパルトゥーはアウダにことのすべてを話しました。彼はすべての責任は自分にあると思いました。フィックスのことを主人に言いさえしていたら!
フィリアス・フォッグは独房にすわり、秒針が時を刻むのを見ていました。まさに最後の日というときに負けるなんて、とても信じがたいことでした。2時33分、独房のドアが勢いよく開き、パスパルトゥー、アウダそしてフィックスがかけこんできました。
「閣下」 フィックスは口ごもって言いました 「まちがえておりました。本当の泥棒は3日前に捕えられていました。あなたは無罪です!」
フィリアス・フォッグはゆっくり立ちあがりました。静かにフィックスの方へ歩いていき、刑事の目をじっとのぞきみました。それから、すばやいパンチでフィックスをなぐり倒しました。
「いい当りです、旦那様!」 パスパルトゥーは笑いました。
フォッグは、最高速度でロンドンへ向けて出発する特別列車をあつらえました。しかし列車が煙をあげて駅に入ったとき、ロンドンの時計は9時10分前を示していました。世界をひと周りしてきて、フィリアス・フォッグは5分間だけ約束の時間に遅れてしまいました。彼は賭けに負けたのです。
3人の旅行者は、うなだれてフォッグの家にもどってきました。ほとんど話をかわしませんでした。みんなフィリアス・フォッグが賭けに負けたことをわかっていたからです。


80日間23


自分を責めていたパスパルトゥーは、アウダの部屋に行きました。「奥様」 彼は懇願しました 「どうかフォッグ氏をなぐさめてあげてください。彼は私をどこかへやってしまいます」
フィリアス・フォッグがアウダのために考えた計画を話しにきたとき、彼女は彼に言いました 「もし私をお助けにならなければ、もっと時間がおありだったのに」
「ご安心ください」 フォッグは言いました。「私に何が起ころうとたいしたことはありません。心配してくれるような家族はいませんから」
「かわいそうに」 アウダはため息をつきました。「つらいことは、わかちあえばもっと楽に耐えられますわ」
「そう言いますね」 とフォッグが答えました。
「それならどうか、私とあなたの悩みを分ちあってください」 アウダは言いました。「私をあなたの妻にしていただけませんか」
「願ってもないことです」 フォッグは答えました。すぐに彼はパスパルトゥーを呼び、彼に結婚式の準備をするように言いました。
「いつ式をあげるのですか。旦那様」 と、彼はたずねました。彼はその知らせを喜びました。「明日、月曜日だ」 幸せいっぱいのフィリアス・フォッグが答えました。
これ以上速くは走れないという速さで、パスパルトゥーは牧師の家へ走っていきました。「お願いします、牧師様」 彼は息を切らして言いました
「私の主人、フィリアス・フォッグ氏の結婚の手はずを、明日の月曜日に整えていただけますか」
「いえ、いえ、あなた」 牧師は言いました。「明日は日曜で、月曜ではありませんよ。今日は土曜日ですから」
「今日が土曜日ですって」 パスパルトゥーはあえいで言いました。牧師がびっくりしているのをよそに、パスパルトゥーは大急ぎで部屋をとびだし、通りへ出ていきました。フォッグ氏の部屋へかけこむと、パスパルトゥーは叫びました 「急いでください、旦那様。私たちは勘ちがいしていました。
今日は土曜日です。賭けに勝つのにまだ10分間残っています」


80日間24


フォッグはぼう然としました。自分がまちがえるはずはない、と。彼は毎日きちんと数えていました。はっとそのとき気づきました。彼は東へ旅行したので、時計を直すべきだったのです。経度15度旅行するごとに、彼は1時間時計をもどさなければなりませんでした。世界を一周すると、つまり彼は24時間得したことになります。まる1日です。彼はとびはねていきました。
12月21日の土曜日の夕方、友人のグループはリフォームクラブにおちあっていました。フォッグの80日目の日でした。彼らは、彼の旅行に関する最近のニュースを知りませんでした、まだ生きているのかさえ知る人はいませんでした。
「8時20分だ」 1人が言いました。 「リバプールからの最終列車はもう到着しているはずだ。なのに彼は、まだここには現れない!」
「そんなに早くこないさ」 もう1人が言いました。「フィリアス・フォッグという男は、非常に時間に正確な男だからね。9時15分前まで、我々は安全とは言えまいよ」
1分2分と時は刻まれていきます。秒針が最後の1分をすべっていきました。時計は8時45分を鳴らしはじめました。ドアが大きく開きました。
「私はここだ。諸君」 フィリアス・フォッグは言いました。彼のうしろには興奮した人びとが集まっていました。
いかなる危険をもくぐり抜けて、彼は80日間で世界を一周したのです。彼は時間との競争に勝ちました。賭けに勝ったのです。それに加えて、彼はアウダという女性にめぐり会えました。フィリアス・フォッグは世界一幸福な男でした。

以上で、「レディバードブックス特選100点セット」の項を終了します。

投稿日:2006年02月24日(金) 09:11

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)