1987年に刊行した英国レディバード社とのタイアップ企画第3弾、「レディバードブックス特選100点セット」のうち、フランスの作家ジュール・ベルヌ(18428-1905)の「80日間世界一周」の第6回目。
●「80日間世界一周」全文 その6
パスパルトゥーはこの遅れにいら立ちました、しかし、フィリアス・フォッグの気分を妨げるものは何もありませんでした。彼は長い間トランプをしてすごしました、まるで時間など気にならないかのように! やっと列車が動きだせるようになったとき、雪が降りはじめました。パスパルトゥーはふたたび心配になりました、まもなく平原が雪でおおわれることを知っていたからです。大雪は線路をこわし、この冒険を終らせてしまうことにもなりかねません。
3日目の朝、列車は突然また止まりました、パスパルトゥーは、何が起きたのか見にいきました。
「いや、川は渡れないよ」 彼は信号係がそう言うのをききました。「列車が通れるほどあの橋はがんじょうじゃない」
機関士は止まっていたくありませんでした。「通らせてくださいよ」 彼は頼みました。「全速力で走れば、飛ぶように渡れれまさぁ!」
彼は列車を少しうしろにもどすと、すぐにスピードをあげて前進しました。エンジンは、悲鳴のような音をあげました。列車もガタガタ揺れました。スピードはどんどんあがりました、時速60マイル、80マイル−100マイルまでも! 車輪は線路に触れていないように見えました。そして電光のように川の上を通りすぎたのです。最後の車両が反対側の岸に着くやいなや、橋は濁流の川へくずれ落ちてしまいました。
次の日、またもや危険がおそってきました。スー族のインディアンの一群が列車をおそい、あたりは野蛮な叫び声とライフルの火花でいっぱいになりました。
100人ものインディアンが列車のそばを疾走し、何人かは列車に飛び乗ってきました。乗客もピストルで応戦しました。
スー族の酋長は馬から機関車に飛び乗りました。彼は機関士と助手をなぐり倒して、そしてハンドルを回して列車を止めようとしたのです。
しかし、機関車はさらに早く音をたてて走っていきました。ハンドルを逆の方向に回してしまったのです。
「列車を止めなければ」 フォッグはドアの方にむかいながら叫びました。「いけません、旦那様」 パスパルトゥーは叫びました。「私が行きます」
インディアンにみつからないように、彼は客車からぬけだし、走っている列車の下へもぐりこみました。ゆれる鎖にしがみつき、機関車に着くまで前に進みました。彼がすぐに機関車を客車から切り離したところ、列車はゆっくりスピートを落しはじめました。
客車が駅に近づいたとき、乗っていたインディアンたちは、プラットホームに兵隊がいるのに気づきました。そして、列車からとびおりて逃げていきました。
駅に着いて、機関車が運転手と助手を乗せたまま、遠くへ消え去ってしまったことがわかりました。パスパルトゥーと2人の乗客もまた、いないことがわかりました。
「インディアンが彼らを連れていってしまったのです」 アウダがため息をついて言いました。
「私が勇敢なパスパルトゥーと乗客たちをみつけてきますよ」 フィリアス・フォッグは彼女に言いました。何人かの兵隊といっしょに、彼はインディアンを追って出発しました。
アウダとフィックスは他の乗客たちといっしょに駅で持っていました、すると突然警笛がきこえました。そしてうれしいことに、機関車が線路の上をもどってくるのが見えたのです。機関士は彼と助手が意識をとりもどしたとき、スー族の酋長は逃げていて、機関車も止まっていたと話しました。また、機関車の中の火も燃え尽きていたことがわかりました。2人はもう一度火をたき、客車を求めてもどってきたのです。乗客はみんな、もう一度列車にもどって乗車し、ニューヨークへの旅が再開することになりました。
「でも、フォッグ氏といなくなった乗客はどうするのです」 アウダがたずねました。「どうか彼らをおいて出発なさらないで」 彼女は懇願しました。
「みんな明日の列車に間に合わなければならないのですよ」 機関士がそう答えました。アウダはいっしょに行かないことにし、列車が出ていくのを見送りながら駅で待つことにしました。フィックスも彼女といっしょにとどまることにしました、まだ銀行泥棒を捕えられない、と心配しながら。