1987年に刊行した英国レディバード社とのタイアップ企画第3弾、「レディバードブックス特選100点セット」のうち、作品内容を紹介してみよう。今回は、アイルランドの作家オスカー・ワイルド(1856-1900)「幸福の王子他」の第3回目。
● 「幸福の王子」全文3
ツバメは幸福の王子のところへ飛んで帰り、自分のしたことを伝えました。
「不思議なんですが、私はもう、あまり寒さを感じなくなりました」 と、ツバメは言いました。
「それは君がよい行いをしたからだよ」 と、王子は言いました。
それでもやはりツバメは、彼の兄弟たちが飛んでいった暖かいところへ行きたがっていました。そこでその晩、ツバメは王子に 「さようなら、もう行きます!」 と言いました。
「ちいさなツバメくん」 王子は返事をしました 「まだ行かないでおくれ。私には、火のまったくないがらんとした部屋にいる、貧しい若者が見えるのだ。彼はものを書こうとしているのだが、手が冷えすぎていて、ペンが持てないのだ。それに食べるものもない」
「また、あなたの剣のつかから別の宝石を取って、私に持っていってほしいんですか?」 ツバメはききました。
「そこには1つしかなかったのだよ」 王子は答えました。「私の目を1つ取っていかなくてはならないよ。目は青い宝石でできていて、とてもお金になる」
「でも、そんなことはできませんよ!」 ツバメはさけびました。
「お願いだ、私の言うとおりにしておくれ」 王子は頼みました。
そこで、ツバメは像の目から宝石を1つ、つつき出すと、屋根の煙突を飛びこえて、かわいそうな若者の部屋へ行きました。
ツバメは屋根の穴から入っていき、宝石を、テーブルの上にあった花束の中へ落しました。若者は宝石を見たとき、彼の書いた劇を気に入ってくれた誰かが、花束といっしょに贈ってくれたんだと思いました。彼はあんまりうれしかったので、おなかがすいていることも忘れて、すぐ仕事にかかりました。
「これで家賃も払えるし、食べものも買えるぞ」 と、彼は言いました。
ツバメは飛んで帰って、王子にこのよい知らせを伝えました。「さあ、これでお別れです」 彼はこうつけ加えました。「また来年の春もどってきて、あげてしまった宝石をうめる赤と青の宝石を持ってきますよ」
「まだ行かないでおくれ」 王子は頼みました。「下を見てごらん。あの少女が見えるかい? あの娘はマッチを売ろうとしていたのだが、手があまりに冷めたくて、マッチを水の中に落してしまったのだ、もうマッチは役にたたないのだよ。あの娘が家に帰れば、父親があの娘をぶつだろう。私のもう1つの目から宝石を取り出して、彼女にわたしておくれ」
「でも、もしそんなことをすれば、何も見えなくなってしまいますよ!」
ツバメはさけびました。「見えなくなってしまいます」
「お願いだから、私の言うとおりにしておくれ」 王子は頼みました。
そこでツバメは、青い宝石を取り出し、少女の手の中に入れてやりました。「まあ、なんてきれい!」 彼女はそれを見て、にっこりしました。それから、父親にそれをわたすため、走って家に帰りました。もう、父親が少女をぶつことはなくなるでしょう。
ふたたび、ツバメはもどってきました。ツバメは王子に言いました 「あなたの目が見えなくなってしまった今、私は行ってしまうことはできません。いつもあなたのそばにいましょう、そして、もう見えないあなたの目のかわりに、私の目を使ってください」