「子どもワールド図書館」(38巻)の中で、もっとも評価が高かった一つは、「西アジア」(1)(2)であった。特に、2巻目に17ページ分をさいて「イスラエル」を紹介した部分は、中学校の社会科の教師(東京・杉並 山本絵美先生)から、次のような賛辞の手紙をいただいたので記してみよう。
「子ども向の地理の本だとタカをくくっていたら大間違い。イスラエルとイスラム諸国の対立事情を旧約聖書までさかのぼって掘り下げたり、国や民族のあゆみを、ふんだんなイラストと簡潔な記述でわかりやすく紹介しているので、大変参考になる。最新の世界情勢の変化に対応できていない面はあるがこれは表象的なもので、優れた文化地理入門として同僚たちにすすめている」
「イスラエル」の項は、次のように展開する。3回に分けて、この部分を紹介してみよう。
ユダヤ人の国イスラエルができあがった事情を知るには、ユダヤ人の歴史ともいわれる旧約聖書をふりかえらなくてはなりません。紀元前1400年ごろ、エジプトで平和にくらしていたイスラエルの人びとに、悲しみがおとずれました。エジプトの新しい国王が、イスラエル人をどれいとして牛馬のようにこきつかいはじめたのです。
「このままでは死んでしまう」 やがて、モーゼというりっぱなリーダーがでて、ひそかにみんなをつれてエジプトをのがれました。しかし、たちまちエジプト軍に気づかれてしまい、戦車がせまってきました。うろたえる人びとの前に、運悪く海がたちはだかりました。
モーゼは海に向かって、手をさしのべ 「神さまどうかお助けください」と祈りました。すると足もとの潮がどんどん引いて白い砂地があらわれたのです。人びとが渡りおわると海はまたもとどおり、おってきたエジプト軍は波にのみこまれてしまいました。
モーゼは、シナイ山で神の声をききました。「私はヤーウェの神だ。私のほかに神はない。私のいうことをまもって、たがいに仲よくし、カナン(イスラエル)にりっぱな国をつくるのだ」 こうしてヤーウェの神はイスラエル民族の神に高められ、ユダヤ教の土台ができあがりました。やがてエルサレムを首都として、ユダヤ王国は栄えました。ところが2500年前ごろから、バビロニアやギリシアなどに支配され、ついに1900年前、ローマによってほろぼされてしまいました。
いっぽう、いまから2000年近く前にイエス・キリストがユダヤの町ベスレヘムに生まれました。キリストはヤーウェの神はユダヤの民だけを救うのではなく、すべての人びとを神の愛に導く、と教えました。