1980年に出版した「子どもワールド図書館」の刊行の動機は、割と単純な発想からだった。わが子とテレビを見ながら考えたことなのだが、当時「世界名作劇場」という番組があり日曜日の夜7時30分から30分間、フジテレビで放送されていた。「アルプスの少女ハイジ」とか「母をたずねて三千里」、「あらいぐまラスカル」「ぺリーヌ物語」「フランダースの犬」「トムソーヤの冒険」といった世界各地を舞台にした良質で楽しいアニメを子どもたちは夢中になって見ているわけで、それがおとなにも面白い。
「アルプスの少女ハイジ」は、スイスのアルプスとドイツのフランクフルトを舞台にした話だし、「母をたずねて三千里」では、イタリアのジェノバにはじまって、アルゼンチンのブエノスアイレスからコルドバまでを旅する話だ。そういう地理的な背景がわかれば、さらに感銘の深い話としてとらえることができるのではないか、そして物語の舞台となっているさまざまな国や各地方、各都市の表情がわかればなお印象的だし、そこに住む人たちも自分たちと同じように毎日の生活を営んでいるのだという広い世界を自覚し、ひいては国際感覚を身につけさせるよいチャンスだと考えたわけである。
そこで、そういう刊行物を求めて書店や図書館をたずねてみた。ところが、そこにあるのはいわゆる旅行ガイドブックの類かおとな向の文化誌くらいしかない。子ども向きのものはせいぜい中学生向の「世界地理」の副読本がせいぜいといった状態だった。