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初音の鼓

「おもしろ古典落語」の107回目は、『初音(はつね)の鼓(つづみ)』というお笑いの一席をお楽しみください。

骨董好きな殿さまのところへ、出入りの道具屋があやしげな鼓を売りこみにきました。家老の三太夫が応対します。「道具屋の金兵衛か」「どうもご無沙汰いたしまして」「あー、おまえはご無沙汰したほうがいい」「はぁっ?」「いつもわけのわからないものばっかり売りつけおって、困ったもんだ」「なにか、変なのがありましたか?」「あったなんてもんじゃない。加藤清正の使った弁当箱、吉良上野介の隠れていた炭俵とか、ろくなものがない。小野小町のおまるというのもあったが、あれもおまえか」「へェ、さようでございます」「さようでございますではないぞ。このあいだも、なんか桐の小箱があるんで『これは何でございますか』と殿にお聞きしたら、『ノミの金玉の八つ裂きが入ってる』っていわれるが、なにも見えないではないか」「へぇ、手前にも見えません」「おまえに見えないものを売るやつがあるか。何かもっと変わった、ちゃんとそれらしい物を持ってこい。きょうは、何を持ってきた」

「へえ、鼓でございます」「鼓? ほぉ、何の」「初音の鼓でございます」「それは珍しい。源義経が静御前に賜ったという、あの、由緒ある…」「ええ、それでございます」「本物か」「いえ、偽物でございます」「にせもの?」「本物があるわけがございません。正真正銘の偽物です」「その偽物の鼓を、おまえ、いくらで殿に買い上げてもらうつもりだ」「百両」「百両? おまえ気でも違ったんじゃないか」「えへへ、ですからね、初音の鼓なんでございますから、百両で買っていただくと、あたしが助かるんで」「おまえが助かっても、うちの殿が困るではないか、折り紙でもあるのか?」「折り紙はございませんが、初音の鼓の証拠には、ポンとたたいたときに、そばにいるものに狐が乗り移りまして、思わずこれがコンと鳴きます」「ほぉ、鳴くのか?」「鳴きません。ですから、殿が本当かといって、ポンと打つと、あなたが、コンと鳴くんで」「やだよ、そんなことするのは」「やってもらわないと困るんですよ」「おまえが困ったって、わしはいやだよ。そんなバカバカしいことができるか。帰りな」「ただでは頼みませんよ。ポンと打ってコンと鳴いてくだされば一両、ひと鳴き一両さしあげます」「するとなにか? 殿がポンと打って、わしがコンと鳴くと一両?」「はい」「殿がポンポンポンと三っつ打てば」「あなたがコンコンコンと三っつ鳴くと、三両です」「殿がポンポンポンポン、スポポンポンと七つ打つと……」「あなたが、コンコンコンコン、スココンコンと七つ鳴いて七両です」「まぁ、取り計らってやろう」「……ひとつよろしくお願いいたします」

「殿、道具屋の金兵衛が見えておりますが」「ほー、さようか。苦しゅうない。これへ参れ。また何か変わったものを持参いたしたか?」「えー、初音の鼓を持って参りました」てなわけで、話を聞いた殿さまが鼓を手にとって「ポン」とたたくと、側で三太夫が「コン」。「これこれ、そちはただ今、コンと申したが、いかがいたした」「はあ? 前後忘却、一向にわきまえません」「ポンポン」「コンコン」「また鳴いたぞ」「前後忘却、一向に」「ポンポンポン」「コンコンコン」……「コンコンコンコン」「これ、鼓はとうにやめておる」「はずみがついたようで、ゼーゼーゼー…いささか疲れました(一言、殿に耳打ちします)」「あい、わかった。それでは、次の間で休息せよ」ということになりました。

「ははっ、お疲れさまでございます」「お疲れさまではないぞ、おまえ、驚いたよ、えっ? あー続けてくるとは思わないからなぁ。ポンポンポンポン、コンコンコンコン鳴いてる内に喘息がおきてな。なんとか鳴かなきゃいかんと思うから汗はかくし、息が詰まるしどうなるかと思った。いくつ鳴いたかわからんぞ」「へ、ちゃんとこちらはわかっておりますから、大丈夫でございます。……お殿さまがお呼びだそうですから、ちょいと行ってまいります」

「これへ参れ。たいそう気に入った。この鼓は、かたわらにおる者に狐が乗り移ってコンと鳴くのだな?」「はっ、さようでございます」「ん、しからばそのほう、鼓をたたいてみよ」「いやーっ、手前はとんと鼓をたしなみませんで」「いやいや、謙そんするには及ばん。鼓を打ってみよ」「それではたたいてみます。ポン」「コン」「殿、いかがいたしました?」「いや、わきまえぬ」「ポンポンポン」「コンコンコン」「殿、わたしがポンポンポンと三つ打ちますと、コンコンコンとお鳴きあそばしました」「いや、前後忘却である」「ポンポンポンポン、スポポンポン」「コンコンコンコン、スココンコン」「スッポンスッポン、スッポンポン」「コンコンコンコン、スッコンコン」「恐れ入りましてござりまする」「んーん、名器であるな。まさしく初音の鼓に相違ない。ん、して、百両であったな、とらせるぞ」「ありがたき幸せにございます……えっ、殿様、これはあの、一両でございますな」「ん、さようだ」「あのー、初音の鼓は百両にござりまするが……」  

「あー、それでよいのだ。余の鳴いたのと三太夫が鳴いたのが差っ引いてある」


「2月22日にあった主なできごと」

622年 聖徳太子死去…推古天皇(叔母)の摂政として、「17条の憲法」「冠位十二階」の制定など、内外の政治を立派に整えた飛鳥時代の政治家 聖徳太子が亡くなりました。

1732年 ワシントン誕生…イギリスからの独立戦争で総司令官として活躍し、アメリカ合衆国初代大統領となったワシントンが生まれました。

1848年 フランス2月革命…フランスの首都パリで、選挙改革を求める集会が禁止されたことに抗議した労働者や学生がデモ行進やストライキを行ったことで、国王が退位して、第2共和制がスタートしました。革命はヨーロッパ各地に伝わり、ナポレオンの失脚後の「ウィーン体制」(1789年のフランス革命以前の状態を復活させる) の崩壊につながりました。

1989年 吉野ヶ里遺跡…佐賀県にある「吉野ヶ里」の発掘調査の結果が発表され、国内最大規模の弥生時代の環濠(かんごう)集落と大々的に報道されました。

投稿日:2013年02月22日(金) 05:41

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)