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庭かに

「おもしろ古典落語」の99回目は、『庭(にわ)かに』というお笑いの一席をお楽しみください。

世の中には、洒落(しゃれ)のわからない人っていうのがいるもので。「番頭さんや、こっちへ入っておくれ」「へーい、なにかご用で」「今朝、うちのばあさんがいうには、おまえさんは、洒落の名人なんだってな。あたしゃ、生れてこのかた洒落というものを見たことがないんだが、ぜひ見せておくれ」「あたしの洒落はお見せするものではありませんで、強いていえば、聞いていただくものでございます」「そうかい、じゃ聞きましょう。その洒落っていうのをやっておくれ。頼みますよ、はい、どうぞっ」「洒落っていうのは『どうぞ』っていわれて出来るものじゃありませんで、なにか題を出していただきます」「踏み台でも用意するのか?」「いえ、なにか品物の名前でもおっしゃってください。目にふれたもの、頭に浮かんだもの、なんでも結構です。あたしがそれを使って洒落ますので」「そうか、それじゃ、衝立(ついたて)でやってみてくれ」

「ついたて、十五んち、なんてどうでしょう」「ついたて、十五んち? そらお前、一日(ついたち)、十五んち(日)と、間違えてるんじゃないのか」「えぇ、そこが洒落でございます」「どこが洒落だい」「似ておりますから洒落でございます」「じゃ、おれとせがれは似てるから洒落か?」「どうも、あなたには困りますね」「じゃ、他の題でやってみておくれ。ほら、庭にちっちゃなカニが出てきたな。あのカニでやってみてくれ」「庭にカニですか? にわかには洒落られません」「そんなこといわずに、やっておくれ」「ですから、にわかには(庭カニは)…、洒落られません」

「やっぱりできないのか。それじゃ題を変えよう。孫が大きな鈴をけって遊んでいるな。あれでどうだ」「なるほど、鈴をけって……、すずけっては(続けっては)無理ですな」「無理を承知で頼んでるんだ」「ですから、すずけっては無理ですな……」「いいわけは結構です。店にいって仕事をしなさい」「どうも、すみませんです」

「あなた、なにを怒鳴ってるんです?」「ああ、おまえか。今、番頭を呼んで、洒落をやらせたんだ。おまえが『番頭は洒落がうまい』っていってたからな。なんだかんだいってたが、『出来ません』『無理です』って、なにが洒落名人だ」「そんなことはないでしょう。もう少し詳しく話してみてくれませんか……、なんです? 『庭にカニがでてきて、にわかに洒落られません』『孫が鈴をけって、すずけっては無理ですな』っていったんですね。上手いじゃありませんか、座布団あげたいくらい見事じゃありませんか」「そいつは気がつかなかったな」「番頭は洒落の名人なんですから、番頭がなんかいったら『うまい、うまい』ってほめてあげなさいよ。それを怒ったりして、人に笑われますよ」「じゃあ、番頭を呼んであやまろう」

「番頭さん、旦那がお呼びです」「定吉か。さっき旦那に呼ばれて、洒落をやってくれってんで3つほどやったんだが、とたんに怒りだしてえらい目にあった。もう旦那の前じゃ2度と洒落はやらないつもりだ」「へぇ、そうだったんですか。洒落(晴れ)のち雷ですね」「下手な洒落をいうんじゃないよ、旦那に知られたら、おまえも怒られるよ」

「どうも、旦那さま、先ほどは失礼をいたしました」「さっきは悪かったな、怒ったりして。洒落をやってくれたんだってな、歳のせいか、うっかり聞き逃してしまった。いま、ばあさんに小言をくらってなぁ、番頭さん、かんべんしておくれ。そこで、番頭さん改めてお願いしますよ。なにか洒落をやっておくれ」「いやーっ、あたしは、もう、こんりんざい洒落はやめましたんで……」

「やぁー、番頭さん、うまい洒落だ」


「12月20日にあった主なできごと」

1848年 ルイ・ナポレオン大統領…皇帝ナポレオンの甥にあたるルイ・ナポレオンが、選挙に全投票の75%を得て、第2共和制大統領に就任しました。その後ルイは、大統領の権限を強化し4年後に第2帝政をはじめて、ナポレオン3世となりました。

1853年 北里柴三郎誕生…ドイツのコッホに学び、ジフテリアや破傷風の血清療法の完成やペスト菌の発見など、日本細菌学の開拓者北里柴三郎が生まれました。

投稿日:2012年12月20日(木) 05:41

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)