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やかん

「おもしろ古典落語」の88回目は、『やかん』というお笑いの一席をお楽しみください。

天地が開けて以来、この世に知らないものは何もないと豪語する隠居。長屋の八五郎は、一度は隠居をへこましてやろうと物の名の由来を次から次へと質問します。ところが隠居もさるもの、妙ちきりんなこじつけでケムにまきます。

「魚ってのは、いろんな名前がついてますね。マグロってのは、どういうわけで?」「あの魚の皮は黒いだろう。だから、むかしは『まっ黒』っていったのを、だれか気の短いのがまちがえて、マグロになったんだ」「でも切り身は赤いじゃありませんか」「切り身で泳ぐ魚がどこにいる」「あ、そうか、じゃ、ホウボウは?」「あれは行儀の悪い魚でな、あっちこっち、ほうぼう泳ぎまわるからだ」「オコゼは?」「あれは寝ぼうなやつでな、昼も夜も暇さえあれば寝ている。他の魚どもが、みんなで起こせ、起こせといったのを、だれかがまちがえてオコゼになった」

「インチキくさいな。じゃヒラメは?」「平ったいところに目があるから、ヒラメにきまっとる」「だったら、カレイだって同じようなもんでしょ」「あれは、ヒラメの家来だ」「魚に家来なんてあるんですか?」「あるともさ。ヒラメは身分の高い、魚の華族さまだな。華族さまには家令がつきもの、だからカレイ」

ウナギはというと、昔はのろいのでノロといった。あるとき鵜がノロをのみこんで、大きいので全部のめず四苦八苦。鵜が難儀したから、鵜、難儀、鵜、難儀、鵜難儀でウナギ。コチは、こっちに泳いでくるから。向こうにも泳ぐといえば、向こうで待ってればこっちになる……。「信用できねぇな。じゃ魚全体の名前は、だれがつけたんです?」「うるさいな。あれはイワシだ」「イワシなんて魚は、いちばん身分の低い魚でしょ」「あれで魚仲間ではなかなか勢力がある。イワシがいうにゃ、みんなの名前があれば、わしはいらないといったんだな。そうしたら、他の魚どもが、それじゃ困るといった。そこでイワシの親分が『いいたいやつには、何とでもでもいわしとけ』とやった。そうこうするうちに、イワシの名前が、自然についちゃったんだ」

「なんか、すっかりごまかされてるみたいだな。じゃ、隠居の前の土瓶ね、どうしてドビンなんです?」「ああ、これか、土でこしらえたから土瓶にきまっとる」「それじゃ、鉄瓶は?」「わからん男だな、鉄でできてるからだろ」「なるほど、それじゃ、やかんは? 矢でできてるわけじゃないですよ」「昔は……」「ノロといいました?」「いや、これは水わかしといった」「それをいうなら湯わかしでしょ」「だからおまえは愚者だ。水を沸かして、初めて湯になる」「はあ、それじゃ、なぜ水わかしがやかんになったんで?」「これには物語がある。昔、川中島の合戦というのがあった」「ああ、それならあたしも知ってます。武田信玄と上杉謙信の決戦でしょ」

「そう。片方が夜討ちをかけた。かけられた方は不意をつかれて大混乱。ある若武者が自分の兜をかぶろうと、枕元を見たがない。あるのは水わかしだけ。そこで湯を捨て、兜の代わりにかぶった」「うわーっ、熱そうですね」「この若武者、馬に乗るや、敵の真ん中に突っ込む。敵が一斉に矢を放つと、水わかしに当たってカーンという音。矢が当たってカーン、矢カーン。それでヤカンだ」「あっ、とうとうやかんにしちまったな。じゃフタは?」「ボッチをくわえて面の代わり」「じゃ、つるは?」「あごにかけて、やかんの兜が落ちないようにした」「注ぎ口は?」「ちょうど耳に当たるから耳代わり」「耳なら両方ありそうなもんだ」

「ない方は、枕をつけて寝る方だ」


「10月4日にあった主なできごと」

1669年 レンブラント死去…「夜警」 「フローラ」 「自画像」 など数々の名画を描き、オランダ最大の画家といわれるレンブラントが亡くなりました。

1814年 ミレー誕生…『晩鐘』や『落ち穂ひろい』などの名画で、ふるくから日本人に親しまれているフランスの画家ミレーが生まれました。

1957年 初の人工衛星…ソ連が世界初となる人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功しました。これ以降、アメリカとソ連の宇宙開発競争が激しさを増していきました。

投稿日:2012年10月04日(木) 05:21

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)