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看板のピン

「おもしろ古典落語」の62回目は、『看板(かんばん)のピン』というお笑いの一席をお楽しみください。

「ご隠居、どうぞお上がり下さい」「若い者が大勢集まって、何をしてるんだ」「ちょいとサイコロを」「スゴロクか」「いえ、子どもじゃねぇんで…チョボイチです」「バクチだな、バクチはよくないぞ」「そいつはよくわかってるんですが、つい面白いもんで」「若い頃は何度かやった覚えはあるが、42の時に止めた。どうやるんだったかな」「サイコロに数の目が1から6まであります」「そんなことはわかってる」「そのうちの、この数が出るんじゃねえかと決めて、その数に銭を張るんです。で、胴、つまり親が壺を伏せてサイコロをひとつ転がします。壺を開くと、目が出ています。その目が張った数と同じなら勝ちで、張った分と同じ銭がもらえて、違ってると、負けでとられちまいます」「ああ、何となく思い出した」

「やりませんか、ご隠居、胴をとってくださいな」「親をやるのか?」「今夜は誰が胴をやってもダメなんで、『胴つぶれって』やつです」「だから、あたしに押しつけようってんだな。これが壺か、サイコロはどこにある?」「目の前にあります」「ああ、これか。歳をとると目がかすんでくる。これじゃ、勝てるわけがないな。それから耳が遠くなる。周りで小さな声をだされたら、聞こえない。あたしは本年還暦、子どもにもどるともいわれてる。まぁいい、みんなにだまされたと思ってやってみるか」

おぼつかない手つきで、壺の中にサイコロを入れて伏せると、伏せた壺からサイコロが出て、一が出ています。隠居はそれに気づかないようで、「さあ、張ってごらん」「(小声で)おい、みろよ」「伏せた壺からサイコロが飛び出してるよ」「本当だ」「ピン(1)に張りゃ、いただきだ」「歳はとりたくねぇな」「ご隠居さん、本当にこれでいいんですね」

「ああいいよ、どうやらみなさんピンのようだな。それじゃ、壺を開けて勝負をするぞ、では、(壺の外に出ているサイコロを拾い) 看板のこのピンは、こっちにしまって……」「何です。その看板って?」「みんなにピンを張らせるための看板のサイコロだ。こういうバクチは、壺の中が勝負だ」「わざとサイコロをそうやったんですかい」「『ご隠居、サイコロが壺から出ていますよ』という者は一人もいなかった。そういうずるい了見だから、引っかかるんだ。ついでに壺の中のサイコロの目も教えてやろう。中は六だ」「わかるんですか」「出したい目を仕込むことなどわけもないこと、開けるぞ、勝負」「あっ、六だ、みんな取られた。ワー、えらいことだ、カカァにぶたれる」「さ、もっとやるか?」「もう、一文もありません」「なんだい、今のピンへみんな張っちまったのかい、間抜けどもだ。あたしは、お前さんたちから銭を巻き上げたところでしかたない。返すから持ってきな。バクチってのは怖いもんだ。いくら、おれは腕がいいと思ってても、その上をいく腕の立つやつがいるもんなんだ。だから、けっしてバクチはもうするんじゃないよ」

馬鹿な奴がいるもんで、これにすっかり感心して、自分もまねしたくてたまらなくなり、別の賭場へやってきました。「おれは、バクチは42の時に止めた」「てめえ、まだ26じゃねぇか」むりやり胴を取ると、わざとピンをこぼして、「さあ、張んな。みんなピンか。そう目がそろったら、看板のピンは、こうして片づけて……」「あれ、おい、ピンは看板かい」「オレが見るところ、中は五だな……

みんな、これにこりたらバクチは……あっ、中もピンだ」


「3月9日にあった主なできごと」

1888年 梅原龍三郎誕生…豊かな色彩と豪快な筆づかいで知られ、昭和画壇を代表する画家 梅原龍三郎 が生まれました。

1933年 ニューデール政策…アメリカ大統領の ルーズベルト が世界恐慌を克服しようと「ニューディール(新規まき直し)政策」を発表。この日から100日間に銀行および破産直前の会社や個人の救済、TVA(テネシー川流域開発公社)などの公共事業、CCC(民間資源保存局)による大規模雇用などの全国民的な経済活動をスタートさせました。  

1934年 ガガーリン誕生…人類として初めて宇宙飛行をなしとげたソ連の宇宙飛行士 ガガーリン が生まれました。

投稿日:2012年03月09日(金) 05:21

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)