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ねこの災難

「おもしろ古典落語」の54回目は、『ねこの災難(さいなん)』というお笑いの一席をお楽しみください。

めっぽう酒好きな熊五郎。朝湯から帰って一杯やりたいと思っても、先立つものがありません。「たまの休みだというのに、なんとかして飲めねぇかな」「あら、熊さん帰ってたの?」「ああ、お隣りのおかみさん。おや、お皿にみごとな鯛をお持ちですね」「鯛ったって頭だけよ。うちの猫が病気をしちゃってね、知り合いが病気見舞いにって鯛をくれたんで、やわらかいとこを猫にたべさせて、頭と尻尾が残ったから、いま、捨てにいくところよ」「捨てる? もったいないねぇ、鯛は目のまわりの肉がうまいんです…、捨てるんなら、あっしにください」ということで肴はできましたが、肝心な酒がありません。

「猫がもう一度見舞いに酒をもらってくれねぇかな」なんてぼやいていると、ちょうど訪ねてきたのが兄貴分の八っつぁん。「おう、熊公、きょうはおめぇと一ぺえ飲もうと、やってきたんだがね」「うれしいけど、ここんとこ、ふところがさびしくて、それに酒の肴もないし…」「おいおい、何をとぼけてるんだ、台所のざるの下に、大きな鯛があるじゃねぇか」「う、うん…ありゃ、もらったんだ」「あんなものもらったら、すぐ、おれをむかえにこなくちゃいけねぇ、ま、いい、あれを肴に飲もうじゃねぇか、いいだろっ?」「うっ、…う、うん…」「さっそく酒を買ってくるから、そこの1升びんを借りてくぜ。おめぇは鯛を3枚におろして、さしみにでもしておいてくれ」ということになって困った熊五郎、いい訳を思いつきました。

「おう、酒を5合買ってきたぜ、さしみは出来たかい?」「あっ、それそれ、おれ、おめぇに、何とあやまろうかと…」「どうしたんだ、いったい」「いや、おれね、鯛を3枚におろして皿にもろうと戸棚までいったら、台所のほうでガタガタ音がするんだ。すぐにすっとんでいってみると、となりの猫だ。上の身をくわえてかけだした」「ぼやぼやしてるからだ。でも、下の身はのこってるんだろ、しかたねぇ、半身でがまんするよ」「それ、それなんだよ、近ごろの猫はずうずうしい。片身を口にくわえると、爪でひょいと引っかけると小脇ぃ抱えたかと思うと、肩へひっかついで…」「猫がそんなことするか?」

日ごろ隣には世話になってるんで、我慢してくれといわれた八っつぁんは、しかたなく鯛を探しにまたでかけました。安心した熊は、酒を前にすると、もうたまりません。冷のまま、湯飲み茶碗でさっそく一杯。どうせあいつは、たいして飲まないからとたかをくくって、いい酒だ、うめえうめえと一杯また一杯。これは野郎に取っといてやるかと、燗徳利に移そうとした途端にこぼしてしまいます。もったいねぇと畳をチュウチュウ…、そのうちいい気持ちになって眠りこんでしまいました。

一方、鯛をようやく見つけて帰った八っつぁん。酒が一滴もないのを見てびっくり仰天。猫がこぼしたといわれても、もう許しません。「この野郎、酔っぱらってやがんな。てめえが飲んじゃったんだろ」「こぼれたのを吸っただけだよ」「よーし、おれが隣ぃどなりこんで、猫に食うもの食わせねえからこうなるんだって文句をいってやる」

そこへ隣のかみさんがやってきました。「ちょいと熊さん、いい加減にしとくれ。さっきから聞いてりゃ、隣の猫、隣の猫ってうるさいから、何だろうときてみたら、うちの猫が悪さしたって? 冗談じゃないよ、うちの猫は病気なんだよ。お見舞いの残りの鯛の頭を、おまえさんにやったんじゃないか」「この野郎、どうもようすがおかしいと思った。やい、おれを隣に行かせて、どうしようってぇんだ」

「だから猫に、よーく、あやまってもらいてぇと…」


「12月22日にあった主なできごと」

1572年 三方が原の戦い…甲斐の 武田信玄 は、三方が原(浜松市付近)で、徳川家康・織田信長軍と戦い、勝利をおさめました。家康の一生で唯一の敗戦といわれています。

1885年 伊藤博文初代内閣総理大臣…明治政府は、太政大臣制を廃止して内閣制度を開始し、初代の内閣総理大臣に 伊藤博文 が就任しました。

投稿日:2011年12月22日(木) 06:34

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)