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桃太郎

「おもしろ古典落語」の53回目は、『桃太郎(ももたろう)』というお笑いの一席をお楽しみください。

昔話を親が語ってやるかたわらで、子どもが寝入って「子どもなんてものは、罪のねぇもんだ…」なんていう風景はよくみられましたが、ただいまの子どもは、なかなか寝つかなくなりました。

「さぁ金坊、まだ寝てないな。よし、おとっつぁんが、おもしろい話をしてやろう。昔むかしあるところに、おじいさんとおばあさんがおりました…」「ちょっと伺いますが、昔って何年くらい前のことですか? まぁこれは枕ことばだからいいとして、『あるところ』なんて、そんなとこありませんよ。何県の何町とか何村とか、はっきりいってくれないと。それにおじいさんとおばあさんの名前は、何ていうの?」「あるところはあるところ、おじいさんやおばあさんの名前なんてない」「名前のない人なんて、いないよ」「名前はあったけど、売っちまったんだ、貧乏で」「そんなもの売れないでしょ。売れるんだとしたら、おとっつぁんはなぜ売らないの?」

「黙って聞いてろ、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました」「また伺いますが、山とか川とかいいますが、山にも川にも名前が…」「うるさい、静かに聞いてればいい。おばあさんが洗濯をしてると、川上から大きな桃が流れてきた。その桃を家に持って帰って二つに割ると、中から男の子がうまれた。桃から生まれたから桃太郎という名前をつけた。桃太郎は大きくなると、鬼退治にいくというので、おばあさんはきび団子をつくってあげた。そのきび団子を犬、猿、きじにやってお供にし、みんなで鬼が島の鬼とたたかって、鬼退治をした。鬼の宝ものをどっさり持ちかえって、おじいさんとおばあさんを喜ばせた。どうだ、おもしろかっただろう、金坊」

「なんだ、ちっともおもしろかありゃしない。目が冴えざえしちまった。おとっつぁん、この桃太郎という話は、おとっつぁんがいうような、そんな単純な話じゃないの。もっと深い意味があるんだ。じゃ、あたいが話をするから、黙ってお聞き」「殴るよこの野郎、おれの話がちがってるわけはねぇ」「まぁ、おとっつぁん、穏やかに。昔話っていうのは、教訓のお話なんだよ。『昔むかしあるところに』というのは、何時代のどこと決めないで、わざとぼかしてあるの。どうしてかっていうと、日本じゅうの子どもがこの話を聞いて、想像しやすくしてあるんだ。それから、おじいさん、おばあさんというのは、ほんとうはおとっつぁん、おっかさんなんだけど、おとっつぁんが歳をとれば、なんになります。おじいさんになっちまうでしょ」「あったりめぇよ、よっぽどのことがないかぎり、ばばぁになるわけねぇや」「それから、山と川に行くのは、よく昔からいうでしょ、『父親の恩は山よりも高く、母親の恩は海よりも深い』って。海のない地方もあるんで、川にしたの」「なるほどな、おーい、おっかぁ、そんなとこで針仕事なんぞしてねぇで、こっちぃきて聞いてみろ、それからどうした」

「桃から子どもが生れたっていうけど、あれは子どもが神様からの授かり物であるという象徴なんだ。もし、桃から赤ん坊が出てくるとしたら、果物屋は子どもだらけになっちまう」「そうだな、そこはおれもおかしいなって思ってたんだ。桃ん中で赤ん坊が生きてるはずねぇよな」「そしてね、鬼が島へ行くっていうのは、いうなれば父母のもとを離れて世間の荒波へ出るということなの。鬼というのは、人間のこと。よく『渡る世間は鬼ばかり』っていうでしょ。それからきび団子を持たせたのも、理由があるんだ。おとっつぁん、米の飯ときびの飯とどっちがおいしい?」「そりゃ、決まってら、米の飯のがうめぇ」「そうでしょう、だから、人間はおごっちゃいけない、きびのようなものを常食にしろという戒めなんだよ」「うーむ、違いねぇ」

「それから犬、猿、きじが出てくるでしょ。あれにも、ちゃんとしたわけがあるの。犬は三日飼われたら三年恩を忘れないというぐらい、仁義にあつい動物。猿は猿知恵なんていわれるけど、知恵のある動物。きじというのは勇気を持つ鳥。つまり、この三びきで『仁、智、勇』という三つの徳をあらわしているんだ。人間は世間に出たら『仁、智、勇』を働かせなくちゃいけない。そうすれば世間から信用という宝物をえることができるというわけ。その宝を持ち帰っておとっつぁん、おっかさんを安楽にさせた……めでたい、めでたいという結末なんだ。おとっつぁん、おとっつぁんってばさ…あれっ、寝ちまった……」

「大人なんてものは、罪のねぇもんだ…」


「12月16日にあった主なできごと」

1773年 ボストン茶会事件…この日の夜、インディアンに変装したボストン市民が、港内に停泊中のイギリス東インド会社の船に侵入。342箱の茶を海に投げ捨てました。この事件がキッカケとなって、イギリス本国と植民地の関係が急速に悪化、1年4か月後にアメリカ独立戦争が勃発しました。
 
1859年 グリム弟死去…兄弟で力をあわせ、ドイツに伝わる民話を集大成した グリム兄弟 の弟ウィルヘルムが亡くなりました。

1864年 奇兵隊の挙兵…11月の第1回長州征伐に敗れた長州藩でしたが、高杉晋作 の率いる足軽・百姓・町人の有志で組織された「奇兵隊」がこの日挙兵して、藩の主導権を握りました。

投稿日:2011年12月16日(金) 06:41

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)