「おもしろ古典落語」の47回目は、『近日息子(きんじつむすこ)』というお笑いの一席をお楽しみください。
「お父っつぁん、行ってきたよ」「おお、ご苦労。で、芝居はいつが初日だ?」「明日だ」「明日? おかしいな、きのう千秋楽になったばかりだろ、一日おいただけで、あしたが初日のはずはねぇ。いいかげんなことをいうな」「だって看板に『近日開演』って書いてあったぜ」「ばかっ! 近日開演ってぇのは、明日はじまるってことじゃねぇ」「お父っつぁんは字を知らないから困るな」「なにが?」「近日ってぇのは、近い日のことだよ。今日から数えると、明日がいちばん近い日じゃねぇか」「この野郎、近日てぇのは近いうちにかならずやりますっていうときに、近日開演とか、近日開店とか書くんだ。そんなことも知らねぇくせに、へんな理屈をこねやがって…おまえはふだんからそうだ、いっぺんでも気のきいたことをしたことがあるか?」
親父の説教が始まります。(頭の働くりこうな人間というのは、人のいわれる先に先にやっていくもの。お父っつぁんが煙管(きせる)にたばこをつめたら煙草盆を持ってくるとか、えへんといえばたん壺を持ってくるとか、それくらいのことをしてみろ…)と、ガミガミ説教しているうち、親父が便所へ行きたくなったので、紙を持ってこいといいつけると、出したのは便箋と封筒。「まったくおまえにかかると、良くなりかけた身体も悪くなっちまった」 するとせがれは、フイといなくなりました。
「おや、錆田先生、毎度ごやっかいになりまして。顔色変えてどちらへ?」「お宅へうかがったんですよ」「うちへは昨夜きていただいたばかりで」「それが、たったいま、お宅のご子息が『親父の容態が急に変った、あと何分も持つまいから、早く来てくれ』というんで、取りあえずぶどう糖と食塩注射を持ってまいりました」「えっ? あたしは何分ももちませんか?」「いやいや、とにかくお脈を拝見しましょう」 診ても、せがれがいうほど悪くないから、医者は首をかしげます。
それをかげで見ていた息子、急いで葬儀社へかけつけ、ついでに坊主の方へも手をまわして家にもどると「お父っつぁん、いつ死んでもいいようになってるよ、安心して死んでおくれ」「あきれてものもいえねぇ、お前みたいなやつを残して、まだまだ死ねねェんだ」 そこへ、長屋の連中がどやどやとやってきました。口のうまい男がまず…「このたびは何とも申し上げようがございません。長屋一同といたしましては、生前中ひとかたならぬないごやっかいになりまして、あんないい大家さんが亡くなるとは、なんたる」……いいかけてヒョイと見上げると、仏がエンマのような顔をして、煙草をふかしながらにらんでいます。
「このたびは…へ、こんちは、さよならっ」「ちょいとお待ち、いい加減にしておくれ。おまえさんたちは、なにかい、あたしのくやみでもいいにきたのかい? いったいなんのまねだい?」「どうも相すみません。ご立腹のようですから、申しあげましょう。ちょいと表へ出てごらんなさい、くやみをいいたくなります。白と黒の花輪が飾ってあって、葬儀屋が2、3人ウロついていて、忌中(きちゅう)札まで出てるんですから」「うーん、そこまで手がまわってましたか……おい、せがれ! このばか野郎、表に忌中札まで出てるってじゃないか」と怒ると、「へへ、長屋の奴らもあんまし利口じゃねえな。
よぉく見ろい、忌中のそばに『近日』って書いてあらぁ」
「11月4日にあった主なできごと」
1847年 メンデルスゾーン死去…世界3大バイオリン協奏曲(コンチェルト)の一つと賞賛される「バイオリン協奏曲」をはじめ、「真夏の夜の夢」「フィンガルの洞窟」などを作曲したことで知られる メンデルスゾーン が亡くなりました。
1921年 原敬首相刺殺される…平民宰相といわれた 原敬 首相が、東京駅で19歳の鉄道員に刺殺されて亡くなりました。当時、原内閣の社会主義運動への弾圧、普通選挙法への反対、シベリア出兵の強硬など、資本家の利益につながる政治腐敗に対し、民衆の非難が高まっていました。
1946年 ユネスコ成立…国際連合には、総会、安全保障理事会などさまざまな仕事がありますが、それ以外に経済、社会、文化などを扱う専門機関があります。ユネスコもその一つで、正式には「国際連合教育科学文化連合」といい、それぞれの英文の頭文字だけをとってUNESCO (ユネスコ)と呼んでいます。この日「ユネスコ憲章」が発効し、正式に成立しました。