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堀の内

「おもしろ古典落語」の41回目は、『堀の内(ほりのうち)』というお笑いの一席をお楽しみください。

世の中には、ずいぶんとそそっかしい人がいるもんで。「ちょいとあんた、起きなさいよ」「こりゃ、どうも、おはようございます」「おはようじゃないわよ、あんた」「あんたって、あんたはどたたです?」「何いってんの、おまえさんの女房、おかみさんじゃないの」「そうか、どっかで見たことがあると思った」「きょうは、そそっかしいのを治してもらいに、堀の内のお祖師(そし)さまに、願をかけに行くっていったじゃないの」「あっ、そうだった、行ってきます」「あんたっ! 寝巻で飛び出しちゃだめでしょ、お尻に大きなつぎがあたってんだから。ほら、さるまたはいて、着物を着て、顔を洗いなさいよ…」

こんな調子で、子どもの着物を着ようとしたり、おなべで顔を洗ったり、手ぬぐいと間違えて猫で顔を拭いてひっかかれたりの大騒ぎの末、ようやく家を出ます。ところが途中で行き先を忘れ、通りがかりの人にいきなり「あたしは、どこへ行くんで?」 なんとかたどり着いたものの、さい銭をあげるときに、財布ごと投げこんでしまいます。「ドロボウっ!」と叫んでも、もう手遅れ。しかたなく弁当を食べようと背負った包みを開けてみると、風呂敷だと思ったのがかみさんの腰巻き、弁当のつもりが枕。「ちきしょうめ、腹はへるし、金はねぇ、家へ帰ぇったら、どうするか見てやがれ、ほんとに、めちゃくちゃにしやるからな」

帰って戸を開けるなり、「てめえの方がよっぽどそそっかしいんだ。枕を背負わせやがって。何を笑ってやんでぇ」とどなると「おまえさんの家は隣だよ」「こりゃいけねえ」と家にもどり、「どうも相すみません」。かみさん、あきれて「お弁当はこっちにあるっていったのに、おまえさんが間違えたんじゃないか。腰巻きと枕は?」「あ、お祖師さまにおいてきちまった」どうも、なんともたいへんな騒ぎで。

「おれ、ほこりになっちゃったから、ちょいと湯へ行ってくる」「じゃ、金坊連れてってちょうだい」「やだよ、おとうちゃんは、お湯の中へさかさまにいれるんだもの、死んだ方がいいよ」「今日は真っ直ぐに入れてやる。おとっつぁんがおぶってやるから。おや、大きな尻だな」「そりゃあたしだよ」

湯屋に着くと、「もしもし、なんだってうちの娘をはだかにしちゃうの?」「おたくの?」「今、湯から出して、着物を着せたばかりじゃないか」「どうもすいません。うちの坊主にしちゃ、ついてるもんが違うと思った。ほれ、金坊、裸になれ」「もうなってるよ」「なったらへぇるんだ」「おとうちゃん、まださるまたはいてる」「さるまたなんざ、どこだってぬげるんだ。丸めて、こう、ほうればいいんだ…ありゃ、よその人にぶつけちゃった、すんません、そのカゴへ入れといてください」

「さぁ、背中を流してやるからな。いい身体だ。ありゃ、いつの間にこんな彫物なんぞしやがった。『ご意見無用』だと、…こんちくしょう、この親不孝め」「いてて、なんだって人の尻をつねるんだ。おめぇの子どもは向こうにいらぁ」「……おい、だめだよ、そばにいなくっちゃ。さぁ、洗ってやろう、そっち向け…おやおや、どこまで巾があるんだ、大きな背中になりゃがったな、手がとどかねぇ…」

「あーあ、おとうちゃん、羽目板洗ってらぁ」


「9月30日にあった主なできごと」

1472年 王陽明誕生…中国が明とよばれていたころ、儒教の流れをくむ「朱子学」に対し、日常生活の中での実践を通して人の生きるべき道をもとめる「陽明学」という学問の大きな流れを作った思想家 王陽明 が生まれました。

1913年 ディーゼル死去…空気を強く圧縮すると高い温度になります。この原理を応用して、空気を圧縮した筒のなかに液体の燃料を噴射して自然発火させ、爆発力でピストンを動かすエンジンを発明した ディーゼル が亡くなりました。

1999年 東海村で臨界事故…茨城県東海村の核燃料施設で臨界事故が発生、至近距離で中性子線を浴びた作業員3名のうち、2名が死亡、1名が重症となったほか、667名の被曝者を出しました。

投稿日:2011年09月30日(金) 06:19

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)