「おもしろ古典落語」の38回目は、『夏(なつ)どろ』というお笑いの一席をお楽しみください。
泥棒というのは、季節にかかわりないようですが、「こそ泥」というのは夏に多いようです。夏は暑いので、戸締りをしていない家もけっこうあります。
「おやおや、しょうがねぇな。この家は留守かな。ぶっそうじゃねぇか、開けっぱなしにして。ありゃ、割れたすり鉢に、古木を入れやがって…ああ、蚊いぶしをしたんだな、こんな家だって、板の間にでも燃えつけば火事になっちまうじゃないか。うす汚ねぇ家だな。でもこんな家でも、小金をためてるやつがよくあるんだ…おやおや、あそこの隅に寝てるやつがいるぞ、おい、起きろ、起きろ!」「あーあ…へぇ、なんでぇ」「あれっ、寝ぼけてやがる、こんちくしょう。さあ、金を出せ」「だしぬけに起こして、一体おまえはなんだ」「なんだと? わからねぇ? 夜中に人の家へ案内もなく入ってくりゃ、いわずとしれた泥棒だ」「ああ、そうか。それじゃ安心だ」「なにが安心だ、泥棒だぞ」「大きな声を出すない。おめぇは素人だな、泥棒だって、どなるやつがあるか。おれにゃ一文たりともありゃしねぇ」
「しらばっくれるな。これでも一軒の家を構えていて、何もないはずがねえ。銀貨かなにか、ぼろっきれにでも包んで隠してあるだろ。おれが消してやらなかったら、てめえは今ごろ蚊いぶしが燃え上がって焼け死んじまったんだ。いわば命の恩人だ」「余計なことをしやがる。じつはな、おれは今半分死んでるんだ。けれども、毒を買う銭はなし、刃物だって、切れねぇ菜っ切り包丁があるだけだ。おめえは合口(短刀)を持ってるようだな。ブスリとひとおもいにやってくれ」
「やいやい、てめぇみたいな若ぇもんが、なんで死にてぇんだ」「食えねぇんだ。おれは、大工だが、さっきも棟梁がきて、仕事が忙しいから、早く仕事場へ出てこいって…」「ありがてぇ話じゃねぇか。でかけたらいいじゃねぇか」「うん、おれだっていきてぇよ。けれど、泥ちゃんの前だが、大工道具を持たずにはいけねぇ」「道具箱はどうした?」「預けてあるんだ、や七さんのとこへ」「友達か?」「友達じゃねぇが、ごく懇意にしてる」「懇意だったら、わけを話して返してもらったらいいだろ」「それが、金を持っていかなきゃ、返してくれねぇ。むこうも商売だからな」「商売ってなんだ」「質屋だ」「質屋なら質屋とはっきりいえ。いくらで預けた? なに、十文? いくじのねぇこというなよ、十文なんぞ、どこへいったって融通がつくじゃねぇか」「融通がつくくれぇなら、まごまごしてるもんか。ビタ一文ねぇから、おれは死にてぇといってるんだ、早く殺せ」「おいおい、よせやい、そんな大きな声を出しゃがって…。じゃ、十文ありゃ、道具箱が出せるんだな」「そうだよ」「そうか、それじゃ、おれが十文やろう。しっかり働け」「そりゃ、すまねぇな。泥棒にしとくにゃ、惜しい男だな。ただ、十文じゃ足りねぇんだ。十文は元金で、利息が五文で、十五文」…。おまけに家賃が5か月とあわせ、五十文貸せといいます。
金をせびられた泥棒、そんなに金はもっていないというと、「どうしても貸さねえな。この路地を出れば一本道だ。おれがが泥棒ってどなれば、長屋じゅうの男たちが残らず飛んでくる。相撲取りだっているんだ」と、逆に脅され、しかたなく五十文出すと、今度はおかず代にもう二十文貸せと、いいます。とんでもねえと、断ると「どうしても貸さねえな。路地を出ると一本道だ」とまた始まりましたから、しぶしぶ二十文。泥棒はもうお手上げ、合計七十文ふんだくられました。
「ありがてえ。これは借りたんだ。今度来たときに」「だれが来るもんか」「そういわずにちょいちょいおいで。おれには身内がねえから、親類になってくれ」「ばかぁ、いいかげんにしろ」と、泥棒がげんなりして引き上げると、あわを食って煙草入れを置いていきました。男は煙草を吸わないので、もらってもしかたがないと後を追いかけて「おーい、泥棒ぉ」「こんちくしょう。ま抜けめ。泥棒ってぇやつがあるか」
「でも、おめえの名前ぇが、わからねぇ」
「9月9日にあった主なできごと」
686年 天武天皇死去…645年におこった大化改新の事業を完成させ、革新の気風あふれた白鳳文化を生んだ 天武天皇 が亡くなりました。
1828年 トルストイ誕生…『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』などの長編小説や随想録『人生読本』で名高いロシアの作家 トルストイ が生まれました。
1948年 「朝鮮民主主義人民共和国」成立…同年8月に成立した「大韓民国」(韓国)に対抗して、「朝鮮民主主義人民共和国」(北朝鮮)が成立し、金日成を首相に選びました。