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だくだく

「おもしろ古典落語」の25回目は、『だくだく』というお笑いの一席をお楽しみください。

ある新米の泥棒が、仕事場を物色しながら歩いていると、明かりがぼんやりついていて、戸が半分開きかかった家があります。

「こんばんは…、ごめんくださぁーい、お留守ですか? しめしめ、誰もいないようだな。どうせ、こんな裏長屋のことだから、たいした仕事にはなるめぇが、今夜はおれにとっての開業式だ、縁起もんだから、金だらいのひとつもとりゃいいや。……こんばんは、ほんとにお留守ですか? どっかに隠れてて、いきなり『ばぁー』なんて脅かしちゃいやですよ。へぇー、ばかに道具がいっぱい揃ってるね、こりゃ、すばらしい箪笥だ、こんなたんすの中にゃ、もめんの着物なんてのは一枚も入ってねぇで、やわらかい着物がぎっしり入ってるんだぜ、きっと。…おやおや、何だいこりゃ、のっぺらぼうだよ……あっ、鉄瓶の湯気がプゥプゥあがってやがる、ふたをとらねぇと危ないじゃねぇか……ありゃりゃ、おかしいと思ったら、こりゃみんな絵だ、しかし、うまく描いてあるね。どう見たって本物だよ。おまけに奥のほうにゃ、人が寝てるところまで描いてある。この人間なんざ、息してるみたいだぁ。…いや、感心してちゃいけねぇ、このまま帰ったんじゃ仲間に顔向けできねぇ。この家が、絵に描いた道具があるつもりなら、おれのほうも、泥棒に入って、盗んだつもりでいこう」

のんきな奴があったもんで、泥棒芝居をはじめます。「…ええ、まずは、大風呂敷を広げたつもり。たんすの引き出しをあけて、女ものの着物をどっさり、羽織を5、6枚、風呂敷の上にのっけたつもり。おっと、上の引き出しからダイヤ入りの金の指輪と、むこうに掛かっている六角時計を盗んだつもり。床の間に応挙先生の掛け軸があるから、横にある骨董類といっしょに、みんな風呂敷に入れたつもり…と。この大風呂敷を結んだつもり…、このおっきな包みを、うんとこしょと、しょったつもり…重たくて立てねぇつもり…ようよう立ったつもり…」

と、一人ぐずぐずやっておりますと、奥に寝ていたこの家の主人が目をさましました。「あれぇ、大きな野郎がいらぁ。冗談じゃねぇ、泥棒だよ。ふーん、絵に描いた道具でもこれだから、金持ちは心配なはずだ。ははぁ、こっちが絵だもんだから、泥棒の方も盗んだつもりとおいでなすったか、しゃれた野郎だ。あれっ、包みをしょったつもりで、真っ赤になってうなってやがる。…おれの方も盗まれたつもりにならなくっちゃいけねぇや。…さぁ、ふとんをガバッとはねあげたつもり。敷居の上の槍をとったつもり…、それをきゅっきゅっとしごいたつもり…、泥棒のうしろめがけて、ばらばらっと追いかけたつもり…泥棒の脇腹めがけて、えいっと突いたつもり」とやると、泥棒は、

「うーん、あいたたたた、血が、だくだくと出たつもり」


「6月8日にあった主なできごと」

632年 マホメット死去…キリスト教、仏教とともに世界3大宗教のひとつとされるイスラム教の開祖 マホメット (ムハンマド)が亡くなりました。

1810年 シューマン誕生…「謝肉祭」 「子どもの情景」 などを作曲し、ドイツ・ロマン派のリーダーといわれる シューマン が生まれました。

1947年 日教組結成…奈良県橿原市で日本教職員組合(日教組)の結成大会が開かれました。戦後教育の民主化、教育活動の自由、教育者の社会的・経済的・政治的地位の向上をめざすとし、教師は、これまでの「聖職者」から「教育労働者」へと大きく転換していくキッカケとなりました。

投稿日:2011年06月08日(水) 06:39

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)