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子ほめ

「おもしろ古典落語」の20回目は、『子ほめ』というお笑いの一席をお楽しみください。

日頃は、おせじのひとつもいったことのない職人の熊さん。仕事が早じまいしたので、ご隠居さんのところへやってきました。「こんちは、さっき聞いたんですが、お宅に酒樽が届いたんですってね、一杯飲ませてくれませんか」「ああ、飲ませてあげるよ。ただ、なんだよ、うちじゃいいけど、よそじゃ、おせじの一つもいえなくちゃ、おごってなんかくれないよ」「おせじなんてのは、いったい、どんなことをいえばいいんです?」

「まあ、ちょっと人さまに会ったら、ていねいに言葉をかけるんだな。『こんにちは、いい天気でございます。しばらくお目にかかりませんでしたが、どちらかにお出かけでいらっしゃいましたか?』…で、その方が『商用で海岸の方へ…』とおっしゃったら、『道理で、潮風におふかれになったとみえて、たいそうお顔の色が黒くなりました。まぁ、そういうふうに一生懸命になっておいでになれば、お店のほうも大繁盛、まことにおめでとうございます』…なんてことをいうんだ」「そういえば、きっと飲ませてくれますか?」「それでだめだったら、奥の手を使う。むこうの年齢(とし)を聞くんだ。『失礼ではございますが、あなたのお年はおいくつで?』…その方が45だとおっしゃったら、『45にしちゃ、たいそうお若い、どうみても厄そこそこでございます』という。男の厄年は42だ。一つでも年を若くいわれれば嬉しくなって、一杯おごりたくなるもんだ」

さらに、50歳なら45・6、60歳なら55・6と、4〜5歳若くいえばいいといわれれました。それから、たまたま職人仲間の八公に赤ん坊が生まれて祝い金をふんだくられたので、しゃくだから八公のところに飲みにいきたいので、赤ん坊のほめ方をと聞くと、ご隠居さんはそのセリフも教えてくれました。「『これはあなたのお子さまでございますか? 亡くなったおじいさんに似て、ご長命の相でいらっしゃる。栴檀(せんだん)は双葉よりかんばしく、蛇は寸にしてその気をのむ、どうか私もこんなお子さまにあやかりとうございます』とでもいえば、自分の子どもをほめられて悪い気のする親はいない、きっと一杯飲ませてくれるよ」とアドバイスされました。

「そいつはありがてぇ、じゃあ、さようなら」「まぁ、お待ち、うちで一杯つけるから飲んでいきな」「いや、今教えられたこと忘れないうちにやっつけてきます」と、喜んで町に出ると、顔見知りの伊勢屋の番頭に会いました。早速試してやろうと年を聞くと40歳。45より下は聞いていないので、無理やり45といってもらって、「えー、あなたは大変お若く見える」「いくつに見える?」「どう見ても厄そこそこ」「当たり前だ、ほんとうは40だもの、いいかげんにしろっ!」と頭をポカリとやられてしまいました。

「おう、いるか八公」「おや、だれかと思ったら熊さんかい。このあいだはお祝いをありがとう」「うん、今日は赤ん坊をほめにきたんだ」「そりゃ、ありがてぇ、奥に寝てるから、見てやってくれ。たいそう大きな赤ん坊だって、家じゅうで喜んでるところだ」「そうけぇ…うーん、なるほどでけぇや。しかし、ちょっとでかすぎねぇか、ひたいがしわしわで、もう入れ歯まではめてるのか」「そりゃ、家のじいさんだ、頭がいてぇって寝てるんだ」「ああ、そうか道理ででけぇと思った…これが赤ん坊か、おやおや、人形のような赤ん坊だな」「ありがとうよ、来る奴くるやつ、猿のようだとか、ほし柿みたいだなんて、ろくなこといわねぇ、人形みたいだなんていうのはお前だけだ、そんなにかわいいか?」「いえね、おなかを押すときゅっ、きゅって泣くからよ」「おいおい、乱暴するな、おなかを痛めちゃうじゃないか」

「かわいい手をしてるね、もみじみたいな手だ」「いいこといってくれるぜ」「「こんなかわいい手で、よくも祝い金をふんだくりゃがった」「いやなこというな、おれがもらったんだ」「いや、これから、ほめられるだけほめてやるよ」と、ご隠居さんに教わったセリフを思い出しながらいいました。「これはあなたのお子さまでございますか?」「さっきからそういってるじゃねぇか」「亡くなったおじいさんに似て、ご長命の相でいらっしゃる」「じいさんは、そこに寝てるっていっただろ」「せんだんの踏み台は、かんかん…棺桶よりもまだ高けぇ」「なんだいそりゃ」「なんだかわからねぇ…蛇は寸にしてみみずを呑む。どうかこういうお子さんに蚊帳(かや)つりてぇ」「夏じゃねゃから蚊帳なんかつらねぇよ、わけのわかんないことばかりいうねぇ」

「よし、いよいよ奥の手だ。ときに、しばらくおみえになりませんでしたが、どちらの方へお出かけになっていましたかと…えっ、商用で海岸のほうへ…道理で潮風に吹かれたとみえて、お顔の色がてぇそう……赤いね」「赤いから赤ん坊ってぇんだよ」「失礼なことを伺いますが、この赤ちゃんのお年はおいくつで?」「おいしっかりしろよ、きょうはお七夜だよ」「ああ、初七日か」「縁起でもねぇ、初七日ってぇのは死んだ人のことだ、今日はお七夜だから、一つだよ」「一つかい、うーん、一つにしちゃ、てぇそうお若けぇ」「ばかをいうな、一つで若いなら、いったいいくつにみえるんだ?」

「どう見てもタダだ」


「4月15日にあった主なできごと」

905年 古今和歌集完成…古今和歌集(古今集)は、日本で最初の勅撰(天皇の命令で和歌などを編集)和歌集で、醍醐天皇の命によって 紀貫之 ら4名によって編まれ、この日、約1100首、20巻が醍醐天皇に奏上されました。「枕草子」を著した清少納言は、古今集を暗唱することが平安中期の貴族にとって教養とみなされたと記しています。

1452年 レオナルド・ダビンチ誕生…ルネッサンス期に絵画・建築・彫刻そして自然科学にも通じていた万能の天才と讃えられる レオナルド・ダビンチ が生まれました。

1865年 リンカーン死去…「奴隷解放の父」といわれるアメリカ合衆国16代大統領 リンカーン が、南北戦争の終わった5日後の夜、ワシントンの劇場で南部出身の俳優にピストルで撃たれ、翌朝、56歳の生涯を閉じました。

投稿日:2011年04月15日(金) 07:13

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)