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死神

「おもしろ古典落語」の15回目は、『死神(しにがみ)』というお笑いの一席をお楽しみください。

借金でどうにも首が回らなくなった男、3両の金策にかけまわるものの、誰も貸してくれません。かみさんには、金ができないうちは家には入れないと追い出され、ほとほと生きるのが嫌になりました。

「貧乏神よりも、おれは死神に取りつかれたんだな。ひと思いに首をくくろう」とつぶやくと、「おーい、呼んだか」という声がします。びっくりして振り返ると、すっーと出てきたのが、薄い毛が頭へぼゃっと生えて、ねずみ色の着物の前がはだけて、あばら骨が透き通るようにやせこけ、汚い竹の杖を突いた老人です。「へっへっへ、死神だよ。いま、わしを呼んだろ?」「呼ぶもんかっ、どうも変だと思った。急に死のうなんて気になるなんて、てめぇのせいだな、あっちへ行け!」「まぁ、そうじゃけんにいうなよ。おまえが今、死神にとりつかれたなんていうもんだから、てっきり呼ばれたもんだと思って、うっかり出てきちまった。まぁ、これも何かの縁だ。仲良くしよう」

「ごめんこうむらぁ」と逃げようとすると、死神は手招きして、「恐がらなくてもいい。人間ていうのは、いくら死にてぇといったって寿命というのがあって、時期がこなければ死ねるもんじゃねぇ。おまえはまだ寿命があるから安心しろ。それより儲かる商売をやってみねえか。おまえさん、医者になれ」「医者? おれは、脈の取りかただって知らないよ」「脈なんてとらなくたっていい。病人が治れば、おまえはお医者さんで立派に世間に通用するんだ……今おれがな、他の者には見えねぇで、おまえにだけ見えるまじないをしてやったから、長患いをしている病人の部屋へ入って、頭か足のほうを見ろ。必ず死神が一人ついてるもんだ」「へぇ?!」「枕元に座ってるのはいけねぇよ。死神が足元にいる時はこうするんだ、『あじゃらかもくれん、あるじぇりあ、てけれっつーのぱぁ』と呪文をとなえて、手を二つたたいてみな、死神は消えなくちゃならないことになってるんだ。するてぇと、病人はウソのようにけろっと治っちゃう。そうなりゃ、おまえは立派に医者でやっていける」

半信半疑で家に帰った男は、医者の看板を出したところ、まもなく日本橋の豪商から使いが来て「娘が大病で明日をも知れないので、ぜひ先生にご診断を」と頼まれました。行ってみると果たして、病人の足元に死神がいます。「しめた」と、教えられた通り呪文をとなえると、あーら不思議、病人はけろりと全快したではありませんか。これが評判を呼び、たいへんな名医というのであっちからもこっちからもひっぱりだこ。たまに死神が枕元にいると、「これは寿命がつきているから助かりません、おあきらめを…」というと、表に出るか出ないかのうちに息をひきとります。そんなわけで、生き神様とまであがめられ、大邸宅を構えてぜいたく三昧、女房子どもを引き連れて上方見物にでかけました。しかし、しょせん身につかない金、江戸にもどったころには、また以前の一文無しになっていました。

困り果てているある日、江戸でも指よりの「伊勢屋」という大家から、ご主人の容態が思わしくないので、見立ててほしいという使いがきました。出かけてみると、死神が枕元にいます。「残念ながら助かりません」と因果を含めましたが、先方はあきらめきれず、「助けていただければ1千両、いや3千両差し上げる」といいます。これを聞いて目がくらんだ男は、一計を案じました。

若い衆を4人、四隅に座らせ、死神がちょっと居眠りしている隙に、合図と同時に寝床をぐるっと回してしまおうというのです。作戦は大成功、死神がはっと目を覚ますと病人は、足元にいます。『あじゃらかもくれん、あるじぇりあ、てけれっつーのぱぁ』の呪文と手拍子。わっと驚いた死神は、そのまま姿を消してしまいました。いっぽう病人は、元気に起き上がったので、男は約束どおり3千両もらってごきげんです。

ところがその帰り道、あの死神に出合いました。「あっ、死神さん」「『〜さん』だと、ばか野郎。何だってあんなことをしたんだ」「どうもすいません。ここんとこ、ひどい暮らしでして…そこへあんた、3千両と聞いたもんですから…つい、悪く思わないでください」「ひどい目にあわせるじゃねぇか、恩を仇で返しやがった。これから、おれの後をついてこい」と死神は、うす気味悪い地下室に男を連れこみました。そこには無数のローソクがあって、すべて人の寿命だといいます。男のローソクは、もう燃え尽きる寸前。「てめえは生と死の秩序を乱したから、寿命が伊勢屋の主人の方へ行っちまったんだ。もうこの世とおさらばだぞ」

男が泣いて頼むと死神は、「それじゃ、もう一度だけチャンスをやる。てめえのローソクが消える前に、別の消えかけにうまくつなげれば寿命は延びる」男は懸命につなごうとしますが、手が震えてなかなかつなげません。

「ほら、早くしろ」「へ、へぇ…あぁ、消える……」


「3月25日にあった主なできごと」

1499年 蓮如死去…親鸞 が開いた浄土真宗の教えを、わかりやすい言葉で民衆の心をとらえ、真宗を再興させて「中興の祖」といわれる 蓮如 が、亡くなりました。

1872年 樋口一葉誕生…「たけくらべ」「十三夜」「にごりえ」などの名作を残し、わずか24歳で亡くなった作家 樋口一葉 が生まれました。

1878年 初の電灯…この日中央電信局が開設され、その祝賀会でわが国初の電灯としてアーク灯が15分ほど灯りました。ただし、一般の人が電灯を見たのは4年半後に銀座通りにアーク灯がついてからでした。一般家庭で電灯がつくようになったのは1887年11月のことです。

1957年 EECの結成…EEC(ヨーロッパ経済共同体)は、この日、フランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク6か国の代表がローマに集まって、結成のための「ローマ条約」を結びました。1958年1月からEECは正式発足しましたが、その経済面での発展はめざましいもので、ヨーロッパ経済の中心となるばかりでなく、EC(ヨーロッパ共同体)、さらにEU(ヨーロッパ連合)となっていきました。EUの加盟国は、2007年1月にブルガリアとルーマニアが加盟したことにより現在27か国。EUを単一国家とすると、GDPはアメリカ合衆国を上回って世界第1位となっています。

投稿日:2011年03月25日(金) 06:36

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)