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出来心

「おもしろ古典落語」の3回目は、これまた人気の高い落語のひとつ『出来心(できごころ)』(または『花色木綿』)というばかばかしい「お笑い」を一席。

(親方から、てめぇは素質がないから廃業しろと宣告されたドジでまぬけな泥棒。心を入れかえて悪事に励むと誓ったものの、大きな土蔵の塀を切りやぶったら墓地だったとか、電話がひいてあるので入ったら交番だったなどと話すので、親分はあきれて、[空巣ねらい] でもやってみろといわれます)

「空巣って何です?」「何だ、泥棒のくせに空巣を知らねぇのか」「自慢じゃありませんが…」「そんなこと自慢になるか、人のいねぇ留守をねらって家へ入ぇることだ」「そいつは、たちがよくねぇ」「ばかっ、たちのいい泥棒なんているか。締まりをしねぇで、ちょっと出かけてるやつがいるから、そこをつけこんで入ぇるんだ」

「でも、ここの家は留守かそうじゃないか、わかりませんね」「うん、はじめっからはわからねぇ、表から当たりをつけるんだ」「提灯を持って」「何いってやがる、灯りじゃねぇ、当たり。ごめんくださいって、2,3度声をかけて、中で返事がなければ、戸を開けて中に入ぇって、また声をかける。返事がなくても安心するな、はばかり(便所)にいるともかぎらねぇ。おまけに、おめぇみたいなドジな野郎は捕まらないともかぎらねぇな」「そういうときはどうします?」「盗みをしてるところを見つかったんだからしかたねぇ、そんなときは、むやみに逃げたりしねぇで、あやまっちまう」「ごめんなさい、この次は見つからないようにしますからって?」

「ばかったれ、そういうときは [泣き落とし] という手を使うんだ…盗んだものをみんなそこに出して、まことに申しわけございません。職人のことで、親一人子ひとり、おふくろが3年越しでわずらっておりまして、このごろどうも様子が悪うございますから、もしも留守に間違いがあってはならねぇと、仕事も手につきません。仕事しねぇで家にいれば、だんだん食いこむばかりで、病人に薬を飲ませることもできません。ああ、これを質にでもおいて、おふくろに薬を飲ませたり、うまいものの一つを食べさせられると思いまして、ほんの出来心でございますと、涙のひとつをこぼしてみろ、『それはかわいそうに、出来心じゃしかたがない』と勘弁してくれらぁ、うまくいきゃ、小遣いの少しもくれて、逃がしてくれようって寸法だ、どうだ、わかったか」

(早速仕事に出かけたドジな泥棒、空き巣を試みますがなかなか成功しません。怪しまれて「さいご兵衛さんのお宅はどちらで?」としどろもどろで逃げだしたところ、次の家では、主人が2階にいるのも気づかずに、羊かんを盗み食いして見つかり、「さいご兵衛さんはどちらで?」「オレだよ」「えっ? その、もっといい男のさいご兵衛さんです」「何を?」「よろしく申してました」「誰が?」「あたしが」「この野郎っ」…あわてて逃げだします。[あんな間抜けな名前の野郎が本当にいるとは思わなかった] と、胸をなで下ろしながらたどり着いたのが、長屋の八五郎の家。畳はすり切れてボロボロ。土鍋の中におじやと、きたない褌(ふんどし)があるだけ。しかたなく、おじやを食って、褌を懐に入れたところ、八五郎が帰ってきたので、あわてて縁の下に隠れました。八五郎は、おじやが食われているのを見て、泥棒と見当をつけますが、家賃を盗まれたことにしようと、大家を呼びに行きます)

(家賃は待ってもらったものの、大家から、盗難届けを出さなくてはならないといわれた八五郎は褌と答えます。褌なぞどうでもいい、金目のものはないのかといわれて困ってしまい、苦し紛れに布団を盗られたといいます)

「どんな布団だ? 表の布地は何だ?」「大家さんとこに干してあるやつと同じなんで…」「あれは唐草だ。裏は?」「行きどまりです」「布団の裏だよ」「大家さんのは?」「丈夫であったかで寝冷えをしねぇとこで、花色木綿だ」「えぇ、あっしんとこも花色木綿」

(さらに八五郎は盗まれたものを次々にいい、黒羽二重も帯も蚊帳も刀も南部の鉄瓶もお札も、みんな裏が「花色木綿」と答えます。これを聞いて、縁の下の泥棒は、がまんができずに出てきます)

「やいっ、こん畜生っ、何をいいやがる。もう勘弁できねぇ、さっきから聞いてりゃばかばかしいったらありゃしない。何でも裏が花色木綿だってやがら…笑わせるない」「だれだ? おかしな野郎が縁の下からはいだしゃあがって。てめえは泥棒か?」「あはははは…冗談いっちゃいけねぇ、泥棒だって? おれは何にもとっちゃいねぇ、黒羽二重も先祖代々の刀もねぇもんだ、この家にゃ、きたねぇ褌くれぇで、腐った半てん1枚ねぇじゃねぇか」「何にも盗らなくったって、縁の下から出てきたお前さんは泥棒だろう。黙って人の家に入りゃ、それだけで盗っ人だ」

「へぇ、さようで、どうも申しわけござんせん。じつは職人のことで、親一人子ひとり、おふくろが3年越しでわずらっておりまして…これもほんの出来心でございまして…と涙のひとつもこぼし…」「何だ、素人の泥棒だな、まぁ、出来心というなら許してやってもいいが…わしも、この長屋から縄つきを出したくない、勘弁してやる。それにしても、八公の野郎、まるっきり形のねぇことをいいやがって…あれっ、どこへ行ったんだ、はあっこの野郎、お前が縁の下へ入ぇってどうするんだ? 何だっておれにこんなウソを書かせやがったんだ」

「へぇ、これもほんの出来心で……」


「1月21日にあった主なできごと」

1530年 上杉謙信誕生…戦国時代に武田信玄、北条氏康、織田信長らと合戦を繰りひろげた越後の武将 上杉謙信 が生まれました。

1793年 ルイ16世処刑…1774年にフランス国王となったルイ16世は、当初は人気がありましたが、1776年のアメリカ独立戦争を支援したことなどから財政が苦しくなって1789年にフランス革命を招き、前年に王権を停止され、この日ギロチンで処刑されました。 

1866年 薩長同盟…これまで抗争をくりかえしてきた薩摩藩と長州藩は、この日 坂本龍馬 や中岡慎太郎らの仲介により、薩摩の西郷隆盛らと長州の桂小五郎(のちの木戸孝允)が会談、協力して倒幕し、新国家建設を進めることを誓いました。

1924年 レーニン誕生…ロシアの革命家で、世界で初めて成功した社会主義革命「ロシア革命」を主導し、ソビエト連邦、ソビエト共産党の初代指導者となった レーニン が亡くなりました。

投稿日:2011年01月21日(金) 07:27

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)