今週も、印象に残った事がらをつづってみます。
●「野ばら」は何百曲もある?
歌曲の「野ばら」と聞いてすぐ口に出るのは、ゆったりとしたメロディのなかに憂いをおびた3拍子のウェルナーの曲と、テンポの速いリズミカルなシューベルトの曲です。
「童は見たり/野中のばら/清らに咲ける/その色愛でつ/あかず眺むる/紅におう/野中のばら」
そして以下のように続きます。赤いばらは少年に「折ったらトゲで刺しますよ。お願いだから折らないで」と頼みますが、ばらの願いはとどかず折られてしまいます。野ばらは悲しくてしかたがありません。でも野ばらは、折られても、いつまでも気高く香りつづけようとします。
この歌曲は、ドイツの大詩人ゲーテ22歳の時の詩に、曲をつけたものです。ヨーロッパでは、バラが愛の象徴で、少年がトゲのあるバラを折るというゲーテの詩は、自らの体験から書かれたそうで、「青春の真っただなかにいる男女の世界」を暗示していることもあって、多くの作曲家の創作意欲をそそるせいでしょう。ブラームスやシューマンの作品もあり、ベートーベンも挑戦しています。ある日本人が、ドイツやオーストリアの研究者に協力を求めて楽譜をとりよせたところ88曲が見つかり、1987年に出版されたそうです。日本語訳も1907年に近藤朔風によって発表されたのを皮切りに森鴎外、手塚富雄ら20人以上の訳詞が知られています。さらに、長野県の松本市では1995年から毎年「野ばら」の詩に曲をつけるコンクールを催しているそうで、すでに何百曲もできているといいますから、その人気は今も続いているのでしょう。
● 「さくら」の歌詞
もうひとつ歌の話、日本の古謡「さくら」の歌詞のこと。あなたは次のどちらの歌詞で歌いますか?
○ さくら/さくら/野山も里も/見わたす限り/かすみか雲か/朝日ににおう/さくら/さくら/花ざかり
◎ さくら/さくら/弥生の空は/見わたす限り/かすみか雲か/においぞ出ずる/いざやいざや/見にゆかん
日本人の大好きな桜、そして誰もが知っている「さくら」の歌なのに、歌詞がどうも一致しません。ちょっと調べてみましたら、1888年に文部省唱歌として登場したのが後者◎の詞で、1941年太平洋戦争のために小学校が国民学校となった際、「うたのほん」に登場したのが前者○の詞のようです。現在の小学校の音楽の教科書でも前者の詞で登場します。ところが、一部の中学校の教科書には後者◎の詞になっているようで、もうどうでもよいのかもしれません。ちなみに、手元にある「日本の歌」(のばら社刊)では、1番の詞が前者○、2番の詞が後者◎となっています。