テレビがなかった頃は、どの家も、ひとつちゃぶ台を前にみんな集まり、おしゃべりしながら食事をするなど、貧しくとも、会話と団らんがありました。私の子ども時代を思い起こせば、食事を終えると冬はコタツに入り、みかんを食べながらトランプやいろはカルタ、時には百人一首に興じ、満ち足りた時間を過ごしたものです。夏はひとつ蚊帳に入り、ラジオを聞くのを楽しみにしていたことを思い出します。
そして、寝る前は本を読んでもらう時間。私と妹は、一冊ずつその夜に読んでもらう本を決めていて、これが日課であるかのように、父親は毎晩グリムやアンデルセンなど、心わくわくする童話や名作を読んでくれたものでした。
やがて、聞く読書から、自分自身で読む面白さを知るようになり、アラビビアンナイトの不思議な世界、ガリバー旅行記、幸福の王子、クリスマスキャロルのような人生を深く考えさせてくれる物語にふれました。さらに放送劇でその面白さを知った「次郎物語」(下村湖人) や「宮本武蔵」(吉川英治)、担任の先生に勧められた「ドリトル先生」旅行記シリーズを小学校高学年の頃に読破していきました。そこから得た感銘は、この世の奥深さを知ると同時に、しっかり勉強して大人になれば、もっと面白いことにたくさん出会えそうだという、大きな夢や希望につながったような気がするのです。(以下次回)