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伝記「エジソン」

10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第27回目。

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● 自分との闘い
偉人として、子どもたちにもっとも人気のある発明王エジソン。このエジソンの伝記を読んだ子どもたちは、どんなことを感じ、どんなことを考え、どんなことを学ぶのだろうか。これを小学校2〜5年生の読書感想文にみると、エジソンの、失敗にくじけない忍耐力の強さと、わからないことに自分の力で立ちむかっていく精神力の強さに、感銘を受けているようです。
「新しいものを、発明しても発明しても、それでほっとしたり、まんぞくしたりしないで、死ぬまで努力をつづけた、すばらしい人、エジソン」 「22歳のとき、万能印刷機の発明で、4万ドルもの大金を手にした。ふつうの人なら、このお金で遊んだり大きな家でも建てたりするのに、それを、つぎの研究費にあてて、さらに新しい発明にいどんでいった、強いエジソン」 「なん百回、なん千回の失敗にもめげずに、ついに電気の発明に成功した、不屈の人エジソン」 「母も妻も早く亡くして自分は不幸だったのに、人々のしあわせのために生きつづけた、心の大きいエジソン」……子どもたちはこのように、たたえています。
しかし、たたえるだけなら、あたりまえのことですが、子どもたちにとって、もっとも価値があるのは、エジソンに自己を重ねてみたとき、自分の忍耐力の足りなさ、努力の足りなさ、心の弱さなどを、見つめられることです。
「わたしなら、どんなにがまんしても5回もしっぱいしたら、なけだしてしまう」 「ぼくには、さいごまでやりとおさないで、とちゅうでやめてしまったことが、たくさんある」 「ぼくだったら、大きな発明で大金がはいったら、あとは、のんびり遊んでしまうにちがいない」 「わたしには、あんなことをやりたいなあと思っても、ただ思うだけで、ひとつも努力しないことがほんとうに多い」……こんなことを自省させ、そのうえで、すべての子どもに「これではいけないんだ」 「たとえ、エジソンのような発明はできなくても、ぼくはぼくなりに、努力しなければいけないんだ」 「どんな人間にとっても、いちばんたいせつなことは、自分とたたかうことだ」 ということに、気づかせています。

● 学ぶことの意味
つまり、エジソンの発明のすばらしさに感嘆する以上に、その強い生きかたに心うたれて、改めて自分の生きかたを見つめなおしており、ここに、伝記から学ぶ大きな意味があるのです。ある2年生の男の子は 「どりょくするということが、どんなことか、わかった。人からいわれたとおりに、人とおなじようなことをしただけでは、だめなんだ」 と言っていますが、これは、すばらしいことです。この男の子の生きかたや心のもちかたは、エジソンの伝記にふれた直後から、おそらく、少しずつ変わっていったのではないでしょうか。また、たとえ目に見えて変わらなくても、かけがえのない心の肥料になったのではないでしょうか。
つぎに、もう1つ、この発明王の伝記から、子どもたちが学びとったものがあります。それは、学ぶことの意味です。「エジソンは、小学校をわずか3か月でやめて、あとは、家で母のナンシーから教わりながら、自分のやりたいことを、自分の力で学んでいった。これが、きっと、ほんとうの勉強だ」 「小さいときから、ふしぎだと思うことは、なんでも人に聞いた。それに、アヒルのたまごを自分であたためたりして、自分のなっとくがいくまで、自分の力でどりょくした。きめられたことだけをおぼえたりするのではなく、自分の知りたいことやしたいことを、自分からすすんで学んでいく、これが、正しい勉強にちがいない」 「いろんなことをおぼえるだけでは、だめなんだ。おぼえたことを、しゃかいに、やくだたせていかないと、なんにもならないんだ」 などと語っている子どもたち。ここでも多くの子どもたちが、自分をふりかえって 「いまの自分の勉強のしかたでよいのだろうか」 と、自分に問いなおしています。
偉大な人間の生きざまは、子どもたちに 「ほんとうに生きる」 気力を与えます。だからこそ、伝記にふれさせることは、大きな意味があるのです。

なお、いずみ書房のホームページにある「せかい伝記図書館」のオンラインブックで「エジソン」を紹介しています。

投稿日:2006年05月08日(月) 09:41

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)