10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第51回目。
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● 読書で身につく「自分で考える」ことの楽しさ
この絵本「11ぴきのねこ」(馬場のぼる文・絵 こぐま社刊) の内容は、次のとおりです。
いつも腹ぺこの11ぴきのねこが、山の向こうの湖に怪物のような大きな魚がいると聞いてでかけます。いかだを作って待っていると、水の上に大きなものがはねました。みんながねらっている魚です。11ぴきのねこは、いかだを出して魚と戦いました。でも、みんな、はね飛ばされてしまいます。
ある晩、大きな魚が島で寝ているのをみつけた11ぴきのねこは、こもりうたを歌って魚を深く眠らせ、いびきをかき始めると飛びかかって魚をつかまえました。そして 「みんなに見せるまではぜったいに食べない」 ことを約束して、魚を引いて帰りはじめました。
ところが一夜明けると魚は骨だけになり、11ぴきのねこは、みんなタヌキのような腹をして、いかだの上に寝ていました。
一人の漫画家が絵を描き文も書いて成功した絵本です。もう、30年以上も読みつがれています。この絵本の最大の魅力は、文句なしに楽しいことです。ただ 「おもしろい」 というのとは少し違います。読み聞かせたあと、子どもたちに 「ふうっ」 とため息をつかせながら満足させる楽しさです。
おいしいものを腹いっぱい食べてみたい。なかまといっしょに何かおもしろいことをしてみたい。でっかいものをやっつけてみたい。みんなとの約束はわかるけど、なかまよりも先に自分だけこっそり欲望を満たしたい。
こんなこと、つまり子どもの夢と欲望がねこをとおして描きだされ、しかも十分に満たされているのです。
この絵本の読み聞かせを始めると、子どもたちの目は初めから輝いています。大きな魚と戦うところになると、もう子どもたちは、すっかり、ねこになりきってしまいます。最後に、満腹になっていかだの上に寝ているのは、ねこではなく、子どもたち自身です。
みんなで遠くへ大きな魚をとりに行く行動の積極性。みんなと力を合わせて大きな魚と戦う勇気。こもりうたを歌って聞かせて魚を眠らせる知恵。みんなが約束を守るだろうかと気になってしかたがない、だれもが持っている疑いの心。
読み聞かせのあと子どもたちは、こんなことには気づきません。ただ 「おもしろかった」 だけです。
「みんな腹いっぱい食べれてよかったね」 「どのねこが最初に食べはじめたんだろう」 「1ぴきが食べはじめたから、わ─、そんしちゃうと思って、みんな食べたんだね」。
こんなことは言います。しかし、ほとんどの子どもは、それだけです。また、それでよいのです。むりに、勇気や知恵や欲望のことなどを考えさせる必要はありません。
「ああ、おもしろかった」 という満足だけで十分です。また、「わたしも、こんなおもしろいこと、やってみたいなあ」 と夢のようなものを持てただけで十分です。
おとなが教えたがるようなことはわからなくても、みんなで力を合わせて何かをすることのすばらしさのようなことや、思いっきり自分のしたいことをやってみることの楽しさのようなものは、それなりに感じとっています。
それらは、どんな小さなことであっても、人から教えられたのではなく、1冊の絵本をとおして、自分の力で学びとったものです。
読書は、その人に主体的に考える力を与える──と言われます。
今の子どもたちの多くは、主体性に欠ける、自分の頭で考える力に乏しいなどと言われます。与えられすぎ、指示されすぎているからです。
勉強はできても、自分をしっかり主張しながら自分の力でものごとに立ち向かって行く精神力に欠ける人をよく見かけます。これでは、かりに一流大学を卒業して一流企業へ入ったとしても、人間らしく生き抜く人生の勝利者にはなれません。
少し話が飛躍しすぎたようですが、子どものころに1冊1冊の本から 「自分で考える」 ことの楽しさを感じとったことは、やがて大きな力になるはずです。
なおこの絵本は、「えほんナビ」のホームページでも紹介されています。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=66