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あしのうらのはなし

10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第62回目。

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● たった1冊で発見の喜びを知る

「うちの子、もっと本を読んでくれればいいのに」──母親がこう思ったとき、“本”として考えているのは、大方が童話か物語でしょう。
しかし、子どもの本の世界全体からいえば、童話や物語などの 「文学」 はむしろ、その一分野にすぎないことを知っておくことが大切です。「文学」 のほかに、科学、社会、歴史、音楽、美術など、さまざまな分野があり、これらを一つにまとめて“知識の本”とも呼ばれています。
絵本でも 「かわ」(福音館書店刊) 「1・2・3どうぶつえんへ」(偕成社刊) 「ちいさなおうち」(岩波書店刊) 「しずくのぼうけん」(福音館書店刊) 「よわいかみつよいかたち」(童心社刊) 「どうしてそんなあししてるの」(金の星社刊) など、数えきれ.ないほどあります。単に、ものごとを知識として伝えるだけではなく、子どもたちに 「ものを知るよるこび」 「発見するようこび」 を与えることが、その大きなねらいです。

次に掲げるのは 「あしのうらのはなし」 (やぎゅう げんいちろう作・絵 福音館書店刊) という本を読んだ1年生の女の子の読書感想文です。

「このほんは、はだしになってよんでね」 とかいてあったので、はだしになってよみました。
わたしは、いままで、あしのうらのことなど、いちどもかんがえたことがありませんでした。だから 「いったいなにがかいてあるのかな」 と、むねがどきどきしました。
あしのうらには、いろいろなかたちがあります。それは、どうぶつが、あしのうらをどうしてつかうかによって、かたちがちがうのだとわかりました。
「にんげんのあしのうらは、こわいぐらい大きいのだ!」 とかいてありました。それは、にんげんが2ほんのあしで立ってあるくからだとわかりました。
あしのうらには、こまかいもようみたいなすじがびっしり。これをよんだとき、わたしは 「あれっ」 とおもいました。「そんなすじあったかな」 とふしぎにおもいました。それで、じぶんのあしのうらを、のぞいてみました。あしのうらをながめるなんて、はじめてです。のぞいたら、すじがたくさんありました。このすじがあるから、なにかにさわったとき、そのかんじがよくわかるのだそうです。
それから、このこまかいすじは、すべりどめのやくめもしているとかいてあったので、そこがぎざぎざのうんどうぐつをおもいだしながら、「にんげんのあしって、ほんとに、よくできているなあ」 と、かんしんしてしまいました。
つちふまずのこともかいてありました。つちふまずは、うんとあるかないと大きくならないそうです。よる、おとうさんも、おかあさんも、おねえさんも、みんなあっまって、くすぐったいからクスクスわらいながら、みんな、あしのうらにえのぐをぬって、かみにべタンとおしました。やっぱり、おとうさんのつちふまずが、いちばん大きくて、わたしのが、いちばんちいさかったです。おとうさんは 「ほら、おとうさんが、いちばんはたらいているからだぞ─」 といばりました。
そのつぎの、にちようび、いえにいる、いぬとねこのあしのうらも、しらべました。きんじょへいって、うさぎのあしのうらもしらべました。えのぐをつけて、かみにとったら、まえあしはまるくて、うしろあしはながほそいかたちでした。きっと、うしろあしでけるからです。
あしのうらは、とっても、おもしろいです。マラソンのせんしゅのあしのうらは、どうなってるのかな。おすもうさんのあしのうらは、どうなってるのかな。みてみたいな。

この子は、たった1冊の絵本ですばらしい発見をしたようです。足のうらのことについて、これほどのことを、子どもに教えられる親は、まずいないでしょう。
1冊1冊の本のもつ力は思いがけないほど大きいものです。

なお、この絵本「あしのうらのはなし」は、「えほんナビ」のホームページでも紹介されています。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=3501

投稿日:2006年08月23日(水) 09:55

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)