10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第55回目。
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子どもに読書をすすめるとき、だれもが、第一に考えるのは、文学作品です。絵本であれば、名作、むかしばなし、創作童話などのおはなし絵本です。
これは、本を読むことをとおして 「情操教育」 という考えが根にあるからでしょう。
しかし、子どもの本にだって、自然科学、社会科学、歴史、芸術などの分野があり、それぞれが、文学におとらないすぐれた価値を持っていることを忘れてはなりません。
名作、むかしばなし、童話を読み、さらに科学や歴史の本も読むというのが、むしろ、望ましい読書です。情熱的な名作や童話には興味を示さなくても、発見へのよろこびを味わわせてくれる科学の本にはひきつけられるという例も少なくありません。
ここに、ロケット・人工衛星・スペースシャトル・宇宙などについて解説した小学生向きの本があります。半分以上を絵で楽しませる、いわば科学絵本に近いものです。
この本のなかに、おとなだって、胸をわくわくさせてしまうような話があります。
一つは、アメリカで打ち上げられ、木星、土星、天王星、海王星を通って太陽系の外へ飛び続けている星探査機パイオニア10号・11号、ボイジャー1号・2号には、他の惑星人 (宇宙人) への手紙が積まれているということです。
地球の男と女の姿と大きさ、地球人の60種の言語によるあいさつ、音楽、地球の位置などをおさめたアルミ板の手紙や銅板のレコードなど──星探査機が他の惑星系に住んでいるかもしれない生物に拾われたときのことが想定されているそうです。
いつか、他の惑星の宇宙人からの返事が、届くかもしれません。
もう一つは、人間が地球からとびだして宇宙に住むという計画です。
重力・空気・食物・景観など地球とほとんど同じ環境の巨大な宇宙ステーションを、引力のバランスがつりあっている宇宙空間に建設しようというスペースコロニー計画。月や小惑星からも資材を運んで長さ32キロメートル、直径6.4キロメートルの巨大な円筒をいくつもつくり、地球から数百万人が移住、そばに工場や農業用のコロニ一もつくって快適に暮らそうというのです。
その居住コロニーには地球と同じような昼と夜を人工的につくり、中には山も川もつくろうというのです。こんなコロニーが宇宙に浮かんだら、人間はとなり町まで散歩するようにして宇宙へ……ということも夢ではないかもしれません。
こんな本を2、3冊も読ませたら、子どもは宇宙のとりこになってしまうこと間違いなしです。そして、宇宙のとりこになると同時に、科学の未来、宇宙の未来、人間の未来に夢を抱くようになります。
「月とうちゅうのふしぎ」 という本を読んだ2年生の男の子が、読書感想文の中で次のように語っています。
「とても、おかしいことがわかりました。ロケットの中でおしっこが外へとびだします。すぐにこおって、お月さまの光がきらきらして、きれいだそうです。それを、うちゅうほたるというのです。これまで“うわあ、きれいなほし”と見ていたのが、おしっこの、うちゅうほたるだったんではないかと、おかしくなりました」。
「こん夜もお月さまは、ぽっかり光っています。わたしはかぐやひめがロケットにのってくればいいのになあと思って、いつまでも見ていました」。
これだって、子どもに夢を与えています。
科学は、子どもを 「むねがどきどきする」 ような世界へ誘ってくれます。
おもしろい冒険小説を読むのに似ています。もし、文学分野の本になじまない子どもがいたら、絵と写真を豊富に入れた科学読みものにふれさせてみることです。目を輝かせて未知の夢の世界にひたってくれるかもしれません。