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おこりじぞう

10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第54回目。

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● 戦争や原爆のことを考えてみましょう

この絵本「おこりじぞう」(山口勇子作・四国五郎絵 金の星社刊) の内容は次の通りです。

原爆で焼け野原になった広島の町に 「わらい地蔵」 とよばれる石の地蔵さまがありました。その地蔵さまのところへ、体じゅう焼けただれた女の子がやってきました。女の子は小さな声で 「水、水」 と、水をほしがっています。これを見た地蔵さまの顔は、しだいに怒った顔になり、見開いた目から涙があふれだしました。そして、その涙は女の子の口もとへ流れていきました。しかし、女の子は、涙のしずくを飲み終えると動かなくなり、少女の死と同時に地蔵さまの頭はくずれて、小さな砂粒になってしまいました。

原爆のむごたらしさと平和への願いを伝える絵本として、もう20年も前から読みつがれている 「おこりじぞう」──この本を読んだ子どもたち(小学2〜3年生) は、その読書感想文のなかで、まず、笑顔から怒った顔になって涙を流したお地蔵さんの心を、いっしょうけんめい考えています。

「おじぞうさんは、やけただれて死んでいく少女を見ているうちに、なんのつみもない少女をころしたせんそうがにくくて、にくくて、しかたがなくなったのだ」。
「おじぞうさんがながしたなみだは、半分は、女の子にのませるために、あとの半分は、かなしくて、かなしくてしかたがないなみだだったんだ」。
「おじそうさんは、じぶんからおこって、あんなかおになったんじゃない。ひとりぼっちでしんでいく女の子を見ているうちに、いつのまにか、おこったかおになったんだ」。
「おじぞうさんに声がでるなら、女の子をこんなめにあわせたのはだれだって、さけびたかったにちがいない。わたしは、女の子がかわいそうで、なみだがでましたが、おじぞうさんの心をかんがえると、もっと、なみだがでました」。

子どもたちは、自分がお地蔵さんになったような気持ちで、お地蔵さんのやさしさと苦しみを考え、それを通して原爆へのにくしみを燃えたたせているのです。

「おじぞうさんのような、ふかい思いやりの心が、人間みんなにあったら、きっと、せんそうなんか、おこらなかったんだ」。
「せんそうになったり、げんばくをおとしたりすれば、たくさんの人間が少女のように死んでいくということを、そのころの人は、どうして考えなかったんだろう。おじぞうさまのようなやさしい心で考えたら、げんばくなんかおとせなかったはずなのに……」。

さらに、戦争に対する自分の思いが浅かったこと、戦争をもっと自分のこととしてとらえつづけなければならないことを、訴えている子どももいます。

「わたしは、せんそうはいけないということは知っていても、ただ、それだけだった。この本を読んで、今もげんばくで苦しんでいる人たちのいることをわすれてはならない。その人たちのいのちのことを心から思いやることがたいせつだと思うようになった」。
「せんそうをにくむなら、まず自分が自分いがいのにんげんのいのちをたいせつにする心を、しっかりもつことがたいせつだと考えるようになった」。

子どもたちは、わずか36ページの1冊の絵本から、ここまで考えています。
戦争のこと、原爆のことを、話で聞いただけでは、なかなかつきつめて考えることはありません。自分が少女の身になり、お地蔵さんの身になって考え、その悲しみといきどおりを実感できるからこそ、心にひびくのです。

この絵本は、4、5歳の子どもに読み聞かせても、まばたきもしないで聞き入ってくれます。戦争の悪までは理解できなくても、死んでいく少女の悲しみとお地蔵さんの怒りは、素直に伝わるのです。

「かわいそうなぞう」(金の星社)、 「かあさんのうた」(ポプラ社)、「猫は生きている」(理論社)、「チロヌップのきつね」(金の星社) など、戦争をえがいた絵本はたくさんあります。どれか1冊でも、手にとってほしいものです。

なおこの絵本「おこりじぞう」は、「えほんナビ」のホームページでも紹介されています。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=1603

投稿日:2006年08月01日(火) 09:14

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)