10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第44回目。
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● 二つのやさしさにふれて、心をあたためる
大みそかの日。おじいさんは、笠を売りに町へでかけます。正月のもちを買うためです。ところが、笠は一つも売れません。おじいさんは、しかたなく、雪のなかを帰って行きました。
すると、道ばたに6人のおじぞうさまが、雪まみれになって立っています。
とっても寒そうです。
そこで、おじいさんは、持っていた5つの笠を5人のおじそうさまにかぶせて、さいごの1人のおじぞうさまには、自分がかぶっていた笠をぬいで、頭にのせました。
おじいさんは、なにも持たずに家へ帰りました。でも、おばあさんは、なにも言わずに、おじいさんを、やさしく迎えました。
さて、正月の朝早く、ふたりは、物音に表へでてみました。すると、もちや黄金がどっさり。きのうのおじぞうさまが、とどけてくれたのです。
この 「かさじぞう」 の絵本を、深い雪の中でも歩くように、ぽっくり、ぽっくり読んで聞かせると、どの子どもの顔も、おじぞうさまの顔のように、やさしくなっていきます。
そして、読み聞かせが終わると、ほとけさまのような、やさしい笑顔になって、しばらくは、口もきけない様子。心が、あたたかいもので、いっぱいになっているのです。
この物語のなかには、二つのやさしさがえがかれています。
一つは、おじぞうさまに笠をかぶせた、おじいさんのやさしさです。
もう一つは、もちを買えず、笠ももたずに帰ってきた、おじいさんを、やさしく迎えた、おばあさんのやさしさです。
この二つのやさしさ。子どもたちにはっきり伝わるのは、おじいさんのやさしさでしょう。おじそうさまに笠をかぶせたことと、おじぞうさまが、お礼にもちや黄金を持ってきてくれたことが、話の表と裏になっているからです。
ところが、表面はそうであっても、子どもたちの心をほんとうに満たしているのは、おばあさんの、やさしさかもしれません。つまり、おばあさんの思いやりに表れた、おじいさんと、おばあさんの心のつながりのあたたかさが、子どもたちの心を、満ちたりたものにするのです。
読み聞かせが終わったあと、子どもたちがもらす感想をだまって聞いていると、ほとんどが 「おじいさんが、やさしくしたから、おじぞうさまが、ごちそうやお金を持ってきてくれたんだね」 と言うことです。おばあさんのやさしさには、ほとんどふれません。
しかし、子どもは、自分ではあまり意識しないうちに、おばあさんの思いやりの深さにふれ、作品全体から、大きなやさしさ、あたたかさ、そして思いやりの美しさ、たいせつさを感じとっていくのです。
民話というものは、口で語り伝えられてきたものです。だから、民話絵本も、子どもに自分で読ませるよりは、おとなが、時にはそこに書かれた方言の味わいをも伝えながら、声をだしてゆっくり読み聞かせたほうが、子どもをより楽しませるという要素をもっています。
『ちからたろう』『3ねんねたろう』『だいくとおにろく』『ねずみのすもう』『かにむかし』など、民話の絵本はたくさんあります。雪の降る夜など、家族みんなが集まって読み聞かせをしたら、家の中が、どんなにか、あたたかくなることでしょう。