10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第53回目。
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● 自分で「考える力」をつちかうために
小学校1〜3年生の子どもたちに、アンデルセンの名作 「はだかの王さま」 を読み聞かせたときのことです。
2年生の女の子が、こんなことを言いました。
「だいじんたちが、自分はバカだと思われたらたいへんだから、王さまのきものは、ほんとうは見えないのに見えるというのは、ずるいと思いました。さいごのところで、子どもが王さまは、はだかだよと言ったとき、とっても、すっとしました」
すると、ほかの1、2年生の子どもたちも 「子どもはしょうじきで、おとなはずるいと思いました」 と、口を合わせました。
ところが、このとき、3年生の女の子が言いました。
「わたしは、アンデルセンは、うそをついてでも、自分だけは人からバカだと思われたくない人間のよわさを、おもしろいお話にしたんだと思います」
その女の子が言ったのは、これだけではありません。
「わたしは、この〈はだかの王さま〉はまだでしたが、お母さんから〈マッチ売りの少女〉や〈みにくいアヒルの子〉を読んでもらいました。〈マッチ売りの少女〉は、とっても悲しいけど、少女がおばあさんといっしょに天国へのぼっていく、とっても美しい話でした。それから〈みにくいアヒルの子〉は、アンデルセンは、頭やすがただけで人をわらったりきらったりしてはいけないということを、わたしたちに教えているのだと思いました。だから、この〈はだかの王さま〉も、人間の悲しいこころを、わたしたちに教えているのだと思います」
女の子は、少し、つっかえ、つっかえ、これだけ言うと、なんでもなかったような顔をして、席に腰を下ろしました。
それから1週間後、その女の子のお母さんと会う機会がありました。そこで 「はだかの王さま」 を読み聞かせたときのことを話して、ついでに、どのような読後指導をしておられるのか、たずねてみました。
ところが、「いいえ。読み聞かせたあと感想をたずねたりすると、子どもがいやがるから、特別にはなにも……」 というのが返事でした。
しかし、お母さんと30分くらい話しているうちに、わかったことがあります。
それは、母と子で外へ出かけたとき、池でアヒルを見たら 「あのなかにも、みにくいアヒルの子がいるかもしれないね」、夜いっしょに星空を見上げたときは 「マッチ売りの少女の星はどれかしら」 などと語りかけて、読み聞かせた本の話を、もう一度、よみがえらせるようにしながら、ひとことだけ、「あの話は、ほんとうはどういう話なのかなあ」 などと問いかけてみるようにしているというのです。
「まちがっていてもよいから、なんでも自分で考えるようにしむけています。本を読み聞かせたときも同じです。子どもが少しでも印象的な感想をもらしたときは、そっとほめるようにしています。子ども自身に、いろいろなことを考えさせるのに、本ほど役にたつものは他にないと思います。親がなにかを言うと、すぐ、押しつけになりがちですから……」と。
こういうお母さんに育てられた子どもは、ほんとうに幸せだと思ったものでした。
子どもは、1冊、1冊の本をとおして、しぜんに、独力で考える力をつちかっていくのです。
なお、上に紹介したアンデルセンの作品「はだかのおうさま」「マッチうりのしょうじょ」「みにくいあひるのこ」は、いずみ書房のオンラインブック「せかい童話図書館」で読むことが可能です。他のアンデルセンの作品として、「にんぎょひめ」「あかいくつ」「おやゆびひめ」もあります。ぜひ、のぞいてみてください。