児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ Top >  月刊 日本読書クラブ >  花さき山

花さき山

10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第28回目。

☆ 〜〜〜〜〜〜〜〜★〜☆〜★〜〜〜〜〜〜〜〜☆

「花さき山」(斉藤隆介作・滝平二郎絵 岩崎書店刊)のあらすじは次の通りです。
お祭りのごちそうに使う山菜を採りに、山へ行った少女のあやは、山奥でやまんばに出会いました。ふもと見ると、あたり一面に、美しい花が咲きみだれています。やまんばは、あやに言いました。「この花は、山のふもとの人間が、やさしいことをひとつすると、ひとつ咲く。おまえの足もとの赤い花、それは、おまえが咲かせた花だ。祭りの晴着をがまんして、妹のそよにつくらせた、あやのやさしさが咲かせた花だ」。村へもどったあやは、このことを村の人びとに話しました。しかし、夢でも見たんだろうと、だれも信じてくれません。それからしばらくして、あやはまた山へ行きました。ところがやまんばはおらず、花の咲いているところもありませんでした。でも、あやは……。

● 心の中で涙を流す
この民話ふうの物語絵本を読んだ小学1、2年の子どもたちは、ひとりのこらず、自分のことよりも人のことを考えてあげる、やさしい心の美しさとたいせつさに、心から感銘を受け、共感しています。
「家がびんぼうで、二人のまつりぎをかってもらえねえことを知ってたから、じぶんはしんぼうした。おっかあは、どんなにたすかったか! そよは、どんなによろこんだか!……この本のなかで、ここのところがとってもすきで、読めば読むほど、あやの、やさしさがわかります。いままで、いろんな本を読んだけど、この本がいちばんいい本でした」
「おらは、いらねえから、さよさかってやれ、といったとき、あやは、どんなきもちだったのだろう。心のなかでは、なみだをながしていたのかな。でも、その涙が、花をさかせたんだ」
「おっかあと、妹のために、じぶんはがまんした、あや、なんてやさしいんだろう。でも、あやは、ほんとうは、とってもつよいんだ。心がつよくないと、あんなことはできない」
「ぼくは、この本をよんで、心のつよい、じぶんにまけないにんげんでないと、ほんとうの、やさしいにんげんになれないのだとおもった」
「あやは、おまつりに、はれぎをきることはできなくても、きっと、だれよりも、きれいだったにちがいない。だって、心に、きれいな花をさかせていたんだもの」
「3回よんで、3回、心のなかでなきました。あやさん、ずっと、ずっと、わたしの友だちになってね、わたしも、花さき山に花をさかせるように、がんばるから」
子どもたちは、母親のために妹のために、自分をぎせいにしたあやの心を、いっしょうけんめいに思いやり、やさしい人間のなみだから生まれる、花さき山の清らかな美しさに、目をほそめています。

● ほんとうのやさしさとは何か
また 「心のなかで泣けてしかたがなかった」 ほどの、あやの、やさしさをとおして、ほんとうのやさしさは、自分にうちかつ強い心からしか生まれないことに気づいています。そして、あやとくらべて自分自身を見つめなおし、あやに負けないように、花さき山に花をさかせることのできる人間にならなければ、ということを、心に誓っています。それは、あやのやさしさが、すきとおった感動となって、心に深くしみ入ったからです。
「人には、心からやさしくしなければいけませんよ」 「人間は、自分のことばかり考えてはだめですよ」……こんなことを、子どもに、口先でどんなにくり返し言い聞かせても、なかなか身につくものではありません。ところが、この 「花さき山」 の物語は、ただこれだけで、この絵本を読むすべての子どもの心に、「やさしさ」 の花を咲かせ、実もつけさせています。それは、この物語のもつ香り高い文学性が、子どもの心に純粋な感動をよびおこしたからです。
「ものが、いっぱいあるから、いまのわたしたちは、きっと、たいせつなことをわすれているのだとおもう。どんなにまずしくても、あやは、しあわせだ。あやのかぞくも、しあわせだ。やさしい心のきものをきることを、知っているのだから」
これは、2年生の女の子の感想ですが、文学作品から受けた感動は、小さな子どもの心にも、これほど深い思考を発芽させるのです。純粋な感動ほど子どもを成長させるものはありません。

なお、この絵本「花さき山」は、「絵本ナビ」のホームページでも紹介されています。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=604

投稿日:2006年05月09日(火) 09:31

 <  前の記事 伝記「エジソン」  |  トップページ  |  次の記事 最後の一葉  > 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://mt.izumishobo.co.jp/mt-tb.cgi/603

         

2014年08月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

月別アーカイブ

 

Mobile

児童英語・図書出版社 社長のこだわりプログmobile ver. http://mt.izumishobo.co.jp/plugins/Mobile/mtm.cgi?b=6

プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)