10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第33回目。
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「ちいさなきいろいかさ」(森比左志作 西巻茅子絵 金の星社刊)のあらすじは次の通りです。
お母さんに買ってもらったきいろい傘……なっちゃんは、この傘に雨にぬれていたウサギとリスを入れてやりました。そのつぎに、胴長のダックスを入れてやると、ダックスのぶんだけ、傘がつっつっつっとひろくなりました。そして、ひろくなった傘に、バクのおやこも入れてやりました。さいごに、びしょぬれのキリンも入れてやりました。やがて、雨がやみました。どうぶつたちはみんな森へかえって行きました。すると、かさはもとのちいさな傘にもどりました。家へかえると、お母さんが 「雨がふってたのにどこであそんでたの」 と聞きました。なっちゃんはこたえました。「あのね、あのね、いいことあったの」。
● 子どもを空想の世界にあそばせる
ぼくも、おかあさんにかってもらったきいろいかさをひろげてみた。「ぱちん」。大きなおとがしたけれど、大きくなってこなかった。
ぼくはよこにふってみた。かさどめのひもが、ぶらんぶらんとゆれただけ。こんどはうえしたにふってみた。ふわふわと、かぜがぼくのかおにあたってきた。かみのけがとびあがったけど、きいろいかさは大きくならない。
こんどはぐるぐるまわしてみた。でも、やっぱり大きくならない。なっちゃんのかさだったら、おかあさんもおとうさんもいれてあげたいな。おかあさんだとぼくより大きいから、だっくすくんがはいったときのようにひろくなるかな。おとうさんはのっぽだもん。きりんさんがはいったみたいに、かさのえがにょきにょきのびていくのかな。
がっこうへもっていって、せんせい、ともだち、みんないれてあげたいな。大きな大きなかさに、みんないっしょにはいって、まちへでていったらどうだろう。あるいている人、なんだろうとあつまってくるかな。じどう車はとまって、うんてんしゅさんは、にこにこ手をふってくれるかな。たのしいだろうな。そんなかさを、ぼくもいっぺんもってみたいな。
これは小学校1年生の男の子の読書感想文です。
この『ちいさなきいろいかさ』を読んだ子どもたちはみんな、これと同じように 「わたしも、こんなかさがほしいな」 「こんなかさがあったら、たのしいだろうな」 という感想文を書いています。
また、3〜5歳の幼児に読み聞かせると、きまって 「お母さん、わたしにも、きいろいかさかって」 と言いだします。きいろいかさを持っている子は、さっそくもちだしてきて広げます。このお話が、みごとに子どもたちの夢を、純粋に誘うからでしょう。子どもたちを、文句なしに夢の世界にあそばせるからです。
ところで、ウクライナの民話をもとにした 『てぶくろ』という絵本(福音館書店)があります。人間が森の中に落とした片方の手ぶくろ。この小さな手ぶくろの中に、ねずみ、かえる、うさぎ、きつね、おおかみ、いのしし、くまがつぎつぎにもぐりこんでしまうという奇想天外なお話です。『ちいさなきいろいかさ』は、この『てぶくろ』の日本版といってよいのかもしれません。ちいさなかさに、少女と、うさぎと、りすと、だっくすと、ばくと、きりんが入るというのはやっぱり奇想天外です。しかし子どもは、それをけっしてありえないことだとは思わないで、胸をおどらせるのです。
この『ちいさなきいろいかさ』を読んだ子どもたちは、雨の日には、かならずこのお話を思いだすでしょう。そして、自分の小さなかさの中に、心にえがいた動物たちを入れて、あるいは、心のなかに語りかけてくる先生や友だちを入れて、あたたかい空想の世界を楽しむでしょう。
多くの親は子どもに空想の世界を楽しませることのたいせつさを、知っています。しかし、それを実際に口で伝えることは、たいへんむずかしいことです。ところが、たった1冊の本が、それを伝えてくれるとしたら、こんなすばらしいことはありません。
なお、「ちいさなきいろいかさ」「てぶくろ」は、「えほんナビ」のホームページに紹介されています。
ちいさなきいろいかさ http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=2488
てぶくろ http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=192