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かたあしだちょうのエルフ

10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第11回目。

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「かたあしだちょうのエルフ」 (おのきがく絵/文・ポプラ社) は、つぎのようなストーリーです。
子ども(動物の)のすきなエルフは、ある日、子どもを守るためにライオンとたたかって片足を失い、自分で、えさもさがせなくなってしまいます。ところが、ほかの動物たちは、エルフを助けてやろうとはしません。しかし、エルフは、またも、くろひょうとたたかい、ついにいのちをおとして、大きな木に生まれかわります。木の下には、エルフのなみだでできた池が……。

● 周囲のために生きる愛と勇気
▼ 「エルフのはなし、よんでもらって泣いた。でも、かなしかったんと、ちがうよ」 小1・男 ▼「こんなかわいそうな本、はじめてよみました。よる、おかあさんによんであげながら、なみだが、ぽろぽろでました」 小1・女 ▼「エルフさん、わたしは、あなたをしって、ほんとうによかったとおもいます」 小1・女 ▼ ぼくは、ほんとうにつよいというのは、心がつよいことだと、きがつきました」小2・男。
多くの子どもが、こんなことばを残している 「かたあしだちょうのエルフ」。子どもたちが、この本を読んでもっとも大きく心にひびかせているのは、エルフの愛と勇気です。
エルフが、ライオンとたたかって片足を失う……子どもたちは、ここで、心のなかで 「エルフさん、がんばれ、しっかりと叫んだ」 と言っています。そして片足をくいちぎられてしまったことに 「いたかったやろう」 「かわいそうで、なみだがでた」 「きゅうきゅうしゃで、おいしゃへ、つれていってあげたかった」 などと思いやりの心をよせ、エルフが自分は片足をくいちぎられて痛いのに、自分のことはほっといて、助かった動物の子どもたちに 「みんな、ぶじで、ほんとによかった」 とつぶやくところでは、声をそろえて 「自分のくるしみをがまんして、こんなやさしいことをいうなんて、すごい」 と、エルフをたたえています。また、エルフと自分をくらべて 「ぼくには、こんなことはできない」 「ぼくは、いつも自分のことを先に考えてしまう」 などと、エルフの心よりも小さな自分の心を、反省しています。

● 崇高な生き方と自己犠牲の尊厳さ
片足のエルフは、さいごに、くろひょうとたたかって気がとおくなり、1本の大きな木になってしまう」……ここにくると、子どもたちの感動は 「さいごのさいごまで、子どもたちのために、たたかったんだね。かたあしのだちょうでも、きみが、いちばんすてきだよ」 「きみこそアフリカのどうぶつの王さまだ」 「エルフさん、わたしは、一生あなたを忘れません」などと、もはや〈偉大なエルフ〉への崇拝となっています。
そして、エルフが木に生まれかわったことへ思いをよせ、この本のページをめくり終えたほとんどの子どもが 「かみさまは、エルフのゆうきをほめて、大きな木にしてくれたのだ」 「かみさまが、ごほうびに、もういっこのいのちをくれたのだ」 「しんでしまってハゲワシやハイエナにたべられないように、かみさまが、木にしてあげたんじゃないかな」 「エルフは、しんでからでも、どうぶつたちを、まもってあげたかったんだ」 などとエルフの死を崇高にとらえ、自己犠牲の尊厳さに心をふるわせています。

● 心のきたなさと気高さ
ところで、以上は、エルフのやさしさと勇気への感動ですが、この物語は、もうひとつ別なことを、子どもたちに考えさせています。それは、はじめはライオンとたたかっこてくれたエルフに感謝していた動物たちが、いつのまにかエルフのことなんか忘れ、ついには、ハイエナなどが 「早く死んで、おれたちのエサになれ」 といいだす、動物たちの心のきたなさです。
子どもたちは 「かたあしのエルフは、えさをさがせずにこまっているのに、みんなは、どうしてたすけてやらないのだ」 「みんなは、どうしてエルフに、おんがえしをしないのだ」「エルフのなみだを、どうして、わかってやろうとしなかったのだろう」 「みんなは、ひきょうで、よわむしだ」 などと、いかりを、ぶつけています。「ぼくが、つよかったら、とんでいって、どうぶったちを、なぐってやる」 とさえ、いきどおっています。そして。食べものがなくても 「早く死んでエサになれ」 といわれても、じっとこらえたエルフの苦しみを察しながら、「きみはいつも、まわりのしあわせばかりを考えたんだね」 と、エルフの気高い心に語りかけています。
さて、こうしてみると、子どもたちはわずか30ページたらずの、この1冊の絵本から 「美しい心」 と 「美しい生きかた」 について、なんと深く読みとっていることでしょう。この本をなん回も読みかえしたという2年生の子は 「読んでいるうちに、なみだでボロボロになったけど、エルフは、いちばんたいせつな本です」 と、言っています。エルフは、この本を読んだすべての子どもの心に、いつまでも生きつづけるにちがいありません。

なお、この本は「えほんナビ」のホームページに紹介されている。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=825

投稿日:2006年04月11日(火) 09:16

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)