10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第21回目。
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● 虫たちへの愛の心
「ファーブルの昆虫記」 を読んだ子どもたち(小学校1〜6年生) は、大きくわけると2つのことについて、おどろいたり感銘したりしています。
まず1つは、この昆虫記のなかにえがかれている虫たちへのおどろきと、そのおどろきから発展しての、深い思考です。
アリ、ハチ、クモ、セミ、カマキリなどの生きる姿の、あまりにもの不思議さ、神秘さ、強さ、悲しさ、やさしさ。子どもたちは、これらに目を見はり、いちように 「ただ虫けらだと思っていた虫たちは、みんないっしょうけんめいに生きているのだ」 「虫はのんびりしているようだけど、ほんとうは、ほかの生きものたちとたたかいながら、いのちがけで、生きつづけているのだ」 「どんな小さな虫たちにも、にんげんとおなじような心があるのだ」 「虫たちは、とても人間なんかがかなわないような、すばらしいちえを、たくさんもっているのだ」 などと語っています。
そして、このおどろきは、たんなるおどろきにとどまらず、「これからはけっして虫をいじめないようにしよう」 「どんなことがあっても、たった1ぴきの虫でも、ころさないようにしよう」 「これからは、虫をころしている人を見たら、ぜったいにゆるさない」 などと、虫たちへの愛の心を大きく育てています。また 「虫たちは、みんな、じぶんひとりで生きているのだ。にんげん、にんげんっていばっているけど、わたしには、とてもできない」 「カマキリは、オスがメスに、よろこんでたべられてしまうけど、にんげんにあんなことができるだろうか。とってもできないと思う」 などと、虫たちへの尊敬の心さえ、芽ばえさせています。
● 自分のやりたい道をつらぬくすばらしさ
いっぽう、この虫の世界へのおどろきは、すべての子どもたちに、虫のことについて、これまであまりにも知らなかったことに気づかせ、自分のまわりの自然を、あらためて見なおす目を開かせています。「虫たちがしていることは、それが、なんでもないことのようでも、みんな、ちゃんとした意味があるのだ。これからは、虫の心を考えながら、しっかり、虫をかんさつすることにしよう」 「わたしも、虫をさがして、やさしい心で、かんさつしてみよう。虫からおそわることが、たくさんあるかもしれない」 などと語っている子どもたち。この子どもたちは、自分のすぐ身近なところに、これほどまでに自分の知らない世界のあったことを、はじめて知り、その知らなかったということを知ったことで、知ることの楽しさとたいせつさを知ったのです。また、自然について疑問をもつ心、調べる心、たしかめる心に、火をつけられたのです。
同じ昆虫をえがいた本でも、ここまで、子どもたちの心を高めさせるものは、めったにありません。ファーブルの昆虫への愛と昆虫観察へのおどろくべき執念が結晶しているからこそ、この昆虫記が、これほどまでに子どもたちをひきつけ、これほどまでに子どもたちへ大きなものを与えるのです。
子どもたちが抱いている感銘の第2は、ファーブルの、その偉大さです。1つの昆虫の観察に、なん日、なんか月、なん年もうちこみつづけた熱心さ、がまんづよさ。また、昆虫の観察と研究にささげつくした生涯。すべての子どもたちが、この 「自分の生きたい道を生きた」 ファーブルの偉大さに心をうたれ、ぼくも、わたしも、このファーブルのような信念のある生き方ができたら、どんなにすばらしいだろう、と語っています。
昆虫の世界をとおして知った、いのちあるもの、すべての生命の尊さ、そして、ファーブルの生き方をとおして知った、人間が自分の夢をつらぬきとおして生きることのすばらしさ。この 「昆虫記」 を読んだ子どもと、読まない子どもの、その心の深まりの差は、想像以上に大きいようです。
なお、いずみ書房のホームページにある「せかい伝記図書館」のオンラインブックで「ファーブル」を紹介しています。