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出版業には著作権意識が不可欠

21cf5190.JPGH社長の行動力はすさまじく、印刷を終えて製本作業にかかったばかりの見本を持つと、高級外車に乗って全国を飛び回り、3ヶ月ほどで全セット(26万冊)を完売してきてしまった。すぐに再版ということになるが、簡単にはいかない。日本にフィルムがあれば、1、2ヶ月で完成するが、版があるのは英国。絵の部分を印刷したシートを、英国の港から東京港まで船で輸送、日本での印刷と製本ということになり、完成までにどんなに急いでも半年は覚悟しなければならない。私は、レディバード社の刊行物はヨーロッパの昔話が中心になっているが、日本にも「ももたろう」「はなさかじじい」「竹取物語」(かぐやひめ)など、グリムの昔話やアンデルセン童話などにもひけをとらない昔話や童話がたくさん存在すること。レディバード・ブックスを参考に日本版絵本を制作し、レディバード社に気に入られて「レディバード・ブックス」に組み入れてもらえる可能性も残されている。それがだめでも、H社長の経営するA社が発行元になって売り出せば、日本でもきっと受け入れられるはず、と助言した。この助言は受け入れられ、私はすぐに編集作業にとりかかった。一方A社では、レディバード童話シリーズ日本語版の評判が高まり、販売先から催促の電話が殺到しうれしい悲鳴をあげていた。ところが、再版の完成まで半年も待てないと判断したH社長は、私に内緒で絵本を写真にとり、あろうことか海賊版を作りはじめたという。私はこれを知り、H氏とこれ以上仕事を続けることは無理だと感じ、袂を分かつ決意をした。後日談だが、悪いことはできないもので、結局、正義感に燃える社員のひとりがH社長の不正を訴え、レディバード社の知ることとなって国際裁判にかけられてしまったそうだ。倉庫から1冊も出荷されないまま在庫はすべて廃棄処分を命じられ、それが遠因となって倒産することになったという。

投稿日:2005年06月03日(金) 13:23

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)