私は1972年、まだ社会思想社に勤務していた頃、将来の居住を目的に、妻と共同で80坪ほどの土地を購入していた。当時、千葉県流山市が「南流山再開発地区分譲」ということで、新聞に大々的に広告をしていた。今後これほど安い物件は、首都圏では出ないといううわさもあり、資料を請求して検討してみた。多くの区画の分譲があったが、将来開通する予定の武蔵野線「南流山駅」から徒歩1分、80坪、1100万円の分譲地は価値ありと判断し申し込んでみた。公開で当選者を選ぶそうで、流山市の公会堂へ出向いた。選んだ土地は、一番人気の分譲地だったようで競争率は17倍だという。当たったら儲けものという軽い気持ちだったが、1番くじははずれ、次候補になった。
運がなかったと思っていたところ、後日連絡があり、当選者が資金不足で辞退したため、当方に順番がまわってきた。私も妻も倹約家タイプだったのが幸いし、定期預金をすべて解約して、なんとか1100万円のこの土地を契約することができたのである。
しかし、契約はしたものの、流山市に問い合わせてみると2、3年のうちに開発するといっていた計画は大幅に遅れ、5年先になるか10年先になるか見通しが立っていないという。そのため、土地の権利書が手に入らない。権利書がないことには、銀行もこれを担保に融資するということは出来ないという。
仕方なく、権利書がなくても1000万円程度で買い取ってくれる人を探し始めた。親類から、友人、知人、さまざまな人に声をかけた。ところが、私の身近な人たちの中には、1000万円を用意できる人は、ひとりもいなかった。結局、妻の知り合いの三鷹市にあるTという不動産屋の社長が、当方の窮状を理解してくれ、流山市に問い合わせるなどして物件の確証を得て、1000万円での売却を了承してくれた。
早速、この資金を使って、入札前に「ポケット絵本」の買戻しを実現できたのであるが、何とも割り切れない、苦い思い出である。
ややっ! 昨日開業した、秋葉原とつくばを結ぶ通勤新線「つくばエクスプレス」の駅に、「南流山」があるではないか。急に、口惜しさが増してきたゾ。