いずみ書房のフランチャイズ販売組織にかげりが見えはじめたのは、1983年頃だったろうか。訪問販売という販売手法は、読書や家庭教育に無関心な母親に、幼児期の子育ての大切さを知らせるという点で、たいへん重要な役割をはたしてくれたと思う。私は、営業にたずさわる人たちの基本的な理念にしてもらうため、「絵本のすすめ」(後に改題「かしこい子どもの育てかた」)という小冊子をこしらえ、契約者はもちろん関心の高い見込み客へ、配布するようにしてもらった。そして、営業マンというより教育者としての自覚をもって訪問するよう、教育の徹底をことあるごとに幹部に伝え、よく実行していてくれていた。
ところが、市場は急速に訪問販売に対し冷やかな目を向けるようになった。というのも、当時は飛び込みセールスといって、軒並みドアをたたき、相手の都合におかまいなく、一方的にセールストークを展開し物を売りつける手法が一般的だった。そして、買わないとなると、ドアをバタンと閉めたり蹴飛ばしたり、悪態をついて立ち去るというようなセールスマンまで現れた。行政側も、世間の苦情の多発に業を煮やし、セールスマンの登録証の発行を義務付け、契約後一定期間内であればキャンセルに応じさせる法律を定めて、販売業者、一般顧客双方へ注意を促した。
私は、読書の普及という使命感(ミッション)をになう「いずみ書房」の営業マンと、悪質訪問販売業者とを差別化するためには何が必要か、説得して物を売りつけるセールスという概念から脱却するための方法はないものだろうか、頭を悩ませる日々が続いた。そして、「説得」から「納得」の営業という手法を思いつくに至った。購入してもらうために「説得」するから無理が生ずるのであり、商品やサービスに「納得」してもらえれば問題が生ずることは皆無に近いことに気づいたわけである。その中心が、読書運動の組織づくりだった。