「せかいの童話シリーズ」の販売先として、多くの人が考えることは、幼稚園へ売りこむということだった。当然、私もそう考えて行動をおこした。園に顔のきく知り合いに紹介をもらい、朝から夜遅くまで営業活動に専心した。全巻予約申込書を用意し、園を通じて園児のいる家庭へ配布してもらえないかと頼みこむのだ。やがて紹介された園も底を尽き、片端から飛び込んでいったが、残念ながら成果はほとんど得られない。当時から、幼稚園市場への営業は競争が激しかった。というのも、年少、年中、年長の園児向けに「月刊絵本」を刊行する出版社が福音館書店、学研、ひかりのくに、チャイルド社、フレーベル館など数社あり、それぞれが読み物絵本、科学絵本の2種類、計6種類を刊行し、そのシェアの奪い合いを演じていたのだ。そういう市場に、ネームバリューのない、しかも全巻予約といっても、全10集の計画のうち1集だけしか刊行していない会社の絵本など、どんなに内容がよくても案内することは出来ないという。無理もない。次回の第2集を刊行できる見通しすら全くたっていないのだから。